「33年」(74)エリザベータ近江の思いつき

「33年」(74)エリザベータ近江の思いつき
 ヨアキムとエリザベータ近江夫妻は、けげんな顔をしている。

ヨアキム近江
「ちょっとまってください。いたずらってなんですか?」

エリザベータ近江
「いたずらっていったら、子どものやる悪さですよね。」

ヨアキム近江
「何かおもしろいことなんですか……?」

シスト
「うん。このキリシタン部落やキリシタン村の人たちはね、まわりのみんなからキリシタンだって知られてるのに、仏教徒とそっくりに生活し、ころび証文をだせっていわれたら、さっさとだすんだ。
 家康や秀忠やその後継者たちの鼻をあかしてやるんだよ。キリシタンたちは何もびくびくすることはないんだ。だって最初っからまわりの皆が知っているんだもの。こうやって堂々と生きて、天下の支配者の計画をくじいてやるんだ。おもしろいだろう。」

 二人は、目を丸くしている。そこでシストは、横手の昌寿院の生き方と、まわりの人たちの対応について語ってきかせた。

ヨアキム近江
「なるほど、シスト先生の話のすじがよくつかめました。いたずらに関しても私は大賛成です。何代にも、何百年にもわたって、あんな迫害をかけられたら……。あのときのことを思い出したら、よっぽどの対抗策をもってなければ、キリシタンは本当にじきに根絶されてしまいます。」

 いちばん年寄りで、しかも迫害を直に受けた人の話に、みな真剣に耳をかたむける。

ヨアキム近江
「シスト先生のいたずらがうまくいったとして、キリシタンが何代にも、何百年にもわたって続くためには、もうひとつの鍵があると思うんです。
 それは教えを正しく伝えてゆくことです。字が読めない人にも、暗記がにがてな人にも、あったやり方で。本をとりあげられても、聖画も聖像も。それでも、伝えてゆける方法を考える必要がありますよ。」

シスト
「そうだね……。何かいい方法があるかなあ……」

 みんな考えこむ。エリザベータ近江は、そんなみんなをみまわして、ちょっとためらっていたが、口をひらく。

エリザベータ近江
「あの……、堂々といたずらするっていうのでしたら、いたずらついでに踊ってしまえば、どうかしらねー。」

みんな
「えー。おどるの?」

エリザベータ近江
「私は、おどりのふりつけができるんです。教えの要点の信仰箇条なんかに、ふりつけするんです。そしてみんなでおどれば、盆踊りみたいで、仏教徒みたいでしょう。どうでしょうかね。」

 林の親分が吹き出し、そして大笑いする。

林の親分
「わっはっはっは。いいねえ。近江おどりとでも名づけときゃーはやるぜ、きっと、わっはっは。」

 みんなもつられてわらってしまう。しかし、男たちがみんなあんまり豪快に笑うので、カタリナがエリザベータ近江に同情する。

カタリナ
「私、賛成。神さまをたたえて、おどるなんて、すてきだわ。私もやってみたい、楽しそう。」

林のおかみ
「あんた、笑いすぎよ。いい考えじゃないの。おどりだったら、何百年もそのまんま伝わるしさー、ふりがあれば文句も忘れないしさー。」

林の親分
「わっはっは。悪かった、すまねえ、わっはっは。たしかにいい考えだ。うん。おれは、ほり子たちがおどっている姿が、目に浮かんでしまってよー、わっはっは。それが、さまになってねーんだ、わっはっは。」

 また、みんなが、つられてわらってしまう。迫害の話で重かった雰囲気が、林の親分のおかげで一気に明るくなった。

エリザベータ近江
「私、やってみていいですか? みなさん、かまいませんか?」

 みんな口々に賛成する。

エリザベータ近江
「ああ、よかった。やってみます。」

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2009年7月6日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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「33年」(73)神の敵、徳川家に打ち勝つために

「33年」(73)神の敵、徳川家に打ち勝つために
 1614年の9月になった。シストは寺沢藤兵衛の屋敷で戦略会議を開いた。シストは、これからやるべきことをはっきりとつかんだのだ。彼は、家康や秀忠やその後継者にキリシタンを根絶されないために、何年にもわたる準備が必要だということがわかった。

 シストに呼ばれたのは、寺沢藤兵衛とマグダレナ、六左衛門、寺沢太郎右衛門、林の親分とおかみ、ヨアキム近江とエリザベータ近江夫妻、そしてもちろんカタリナ。寺沢に住んでいる10人が集まった。シストの話しがはじまっている。

シスト
「……久保田藩は収入を増やすために鉱山開発と新田開発を望んでいる。だからペトロ梅津さま一人がキリシタンをやめれば、他のキリシタンは迫害しないという取り引きがおこなわれた。ということは、新田開発をするキリシタンたちも迫害したくないはずだ。
 もうあちらこちらで、流れてきたキリシタンが開墾にとりかかっている。その人達といっしょになって、キリシタンの部落を作っていくんだ。全部の家、そして全員がキリシタンの新田開発をする部落を、あちらこちらに作っていくんだ。それらの部落同志は連絡を取り合い、キリシタン同志が必ず結婚できるようにする。代々それを続ければ、キリシタンはみな親戚という大きな血族ができる……。」

ヨアキム近江
「なるほど、シスト先生、それは連座制を用いて迫害をかけられても、負けないためですね。よく分かりますよ。私たち夫婦も、となり近所の人から追いたてられて、出ていかされましたから。」

エリザベータ近江
「そう、そう。長年仲良くつきあってきた人たちだったのにね……。そして親戚たちのなかでキリシタンでない人たちがみんな、キリシタンをやめるようにって、私達を説得に来たんですよ。そりゃーつらかったですよ。血縁のものたちから、どなられたり、なかれたり……。」

ヨアキム近江
「右の五軒と左の五軒の関係ない人たちを、皆、処刑するっていわれたら、そこにはいられませんよ、本当に。」

エリザベータ近江
「キリシタンをやめないと、おまえの親も子も兄弟姉妹も同罪で殺す。親戚は、皆、財産没収のうえ、追放だとかいわれたんだすよ……。」

シスト
「みんな。ぼくとカタリナに、江戸や京、堺、伏見、大阪の方から来た人たちが、お礼の手紙をくれたよね。近江夫妻と同じような目にみな合わされているんだ。ぼくたちが、手紙を全部読んで、わかったことは、日本人はね、となり近所の無関係な人たちをいっしょに処刑する、血縁の人間を無関係でも、いっしょに処刑するって制度には、本当に弱くって、負けてしまうってことなんだ。
 これに打ち勝つには、となり近所もすべてキリシタン、血縁もすべてキリシタンという状況を、時間がいくらかかっても、つくりあげていくしかないっていうことなんだ。」

六左衛門
「シスト、この連座制の本来の目的は、お互いに見張らせ、密告するようにしむけることだよ。キリシタン以外の人がそうするのを、どうやってふせぐんだい?」

シスト
「うん。それに対して手はない。このあたりの人が日本人じゃないみたいで、そんなことをしない人たちだからこそ、神さまはここに、ぼくたちを導いて来させたんだっていう、ぼくの心の中に神が置いてくださった確信があって、それに対して手はないのに、ぼくはこの大いなるいたずらをおっぱじめるんだ。」

六左衛門
「そうか。このあたりの人が、日本人じゃないみたいで、そんなことをしない人たち、ほとんどすべて、ここにかかっているんだね、神の敵である徳川家に、ぼくたちが打ち勝てるかどうかは。」

 シストは大きくうなずく。

シスト
「そうだよ。だからいっさいかくれないんだ。このあたりの人がみんな、庄屋から代官にいたるまでみんな、どこそこの部落はキリシタン部落だとか、どこそこの村はキリシタン村だとか知っていて、誰も訴え出ないって、ぼくは信じている。何代にもわたって、何百年にもわたってね。そのうえに、このいたずらはなりたつんだよ。」

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2009年7月6日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
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「33年」(72)前代未聞の神のご計画

「33年」(72)前代未聞の神のご計画
 寺沢村に住んで、初めての伝道旅行から六左衛門が帰ってきた。シスト家にさっそくたずねてきてくれた。シスト一家と六左衛門の楽しい晩御飯が終わったところだ。シストは、六左衛門を送ってゆこうと外に出て歩きだした。

シスト
「ところで六左衛門、ちょっと聞きたいんだけど。」

六左衛門
「なんだいシスト?」

シスト
「よそから、流れてきたキリシタンの百姓にどうやって出会うんだい。」

六左衛門
「ぼくにとっては、何もむつかしくないんだよ。ぼくはイエズス会の同宿だからね。まず、村々に歩いていくだろう。そこで誰かに聞くんだ。『よそから来て住み着いた百姓がいますか?』ってね。いたら絶対に教えてくれる。とっても親切にね。
 それで会いに行って、「ぼくはイエズス会の同宿です」って名のるんだ。その人が、キリシタンだったら大喜びして、むかえてくれるんだ。」

シスト
「そんなに、かんたんなんだ……。新田開発をしているキリシタンもふえているんだろう。」

六左衛門
「うん。出羽の国は米作りに向いていて、しかも、新しく開墾できる場所がいくらでもあって、そのうえ久保田藩が新田開発しに、よそから百姓がくるのを望んでいるって聞いて、やってきているんだ。今のところ出羽の国は迫害がないからね。よそで迫害が強まれば強まるほど、流れ込んでくるキリシタンの百姓は増えていくはずだよ。」

 シストは、ゆっくりと何度もうなずきながら聞いている。そして、つぶやく。

シスト
「そうか……。六左衛門といっしょにまわればかんたんだな……。」

六左衛門
「えっ。何だい。」

シスト
「あはは。ぼくは今、すごいいたずらの計画をねってるんだ。」

六左衛門
「えー。いたずらだって?」

シスト
「うん。徳川家にキリシタンを根絶されないためのいたずらだよ。昌寿院と初めて会って、その帰り道で突然、思いついたんだ。」

 そういってシストは六左衛門に説明をはじめる。林の親分の意見と、寺沢藤兵衛の意見も教える。

シスト
「どう思う。六左衛門?」

六左衛門
「ぶったまげた……。よくもそんな大胆なことを思いついたもんだね……。支配者から禁じられ、迫害され、弾圧されるキリシタンを、何代にも何代にもわたって住民全員が役人ぐるみでかばうなんて……。聞いたことがないよ。
 たぶんおこったためしがないはずだよ、世界中のどこにも、今まで。前代未聞っていうやつだ。
 しかし、そういえば、ならずものの地下教会も前代未聞だし、そのならずものの地下教会が、品行方正のキリシタンたちを迫害から助けたっていうのも前代未聞だし……。
 シストが思いつくことは、前代未聞の神のご計画っていうことが続いてきているからな……。今回もぼくはシストを信頼するよ。」

 シストはニコっとほほえむ。

シスト
「うれしいよ。ありがとう。ぼくはよく祈って、考えて、やるべきことをもっとはっきりとつかまなければならないんだ。まだ時間がかかるかもしれないけど。じゃ、おやすみ。」

 ここで、シストは六左衛門と別れ、家に引き返す。

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2009年7月4日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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「33年」(71)知らねのは、おめだげだマグダレナ

「33年」(71)知らねのは、おめだげだマグダレナ
 カタリナは、となりにすわっているマグダレナが「結婚」という言葉に、ビクッと反応したのに気がついた。

「キリシタン同士が必ず結婚し…」と父の藤兵衛が続けると、マグダレナは胸に両手をあて、せつなそうな目をしてカタリナの方を向く。カタリナはすばやく小声でマグダレナに聞く。

カタリナ
「まだ、何もお父さんに話していないの?」

マグダレナ
「なんも、まだはなしてね……」
(何もまだ話してない……)

カタリナ
「私にまかせて。」

 マグダレナがうなずく。

カタリナ
「あのー。藤兵衛さん。キリシタン同士が必ず結婚することが鍵だって、私もそう思うの。そのとおりだわ。生まれてくる子どもにとっても絶対それが必要だわ。
 おとうさんとおかあさんがキリシタンで、そのうえ、二人いるおじいちゃんも二人いるおばあちゃんも、おじさんたちもおばさんたちも、みんなキリシタンだったら、その子は自然とパードレたちみたいにすばらしいキリシタンになるって思うの。」

シスト
「ほー。すごいね。カタリナ。」

 シストだけでなく、カタリナの意見に皆が感心している。特に、自分の意見が別の観点から熱烈に支持されて藤兵衛はにこにこしている。

カタリナ
「わーありがとう、シスト。特に、おとうさんは家族の長で、その家の宗教の面でも柱だから、キリシタンの娘にとって、できるだけ信仰深い立派なキリシタンの男の人と結婚することが、とっても大事だと思うの。
 シストのすごーく大きないたずらとはちがうけど、私もちっちゃないたずらを思いついたのよ。藤兵衛さん、太郎右衛門さん、シスト家と林の親分とおかみさんとでもういたずらしちゃってるんだけど、『六左衛門とマグダレナが結婚しますように』って、六左衛門には内緒で神様に祈っているの。おねがい、いっしょに祈って。」

 カタリナはいたずらっぽく藤兵衛と太郎右衛門にほほえみかける。藤兵衛と太郎右衛門は、マグダレナをだまってみつめる二人の眼差しには愛情があふれている。マグダレナは苦しそうに、せつなそうに二人を見つつ、返事をまつ。

藤兵衛
「おめが、六左衛門さんと結婚したくてたまらねのは、寺沢のひゃくしょら、みんなわがってらよ。今、この村で、皆、いぢばん興味もって、おもしぇがって話してるのは、マグダレナの恋が実るが実らねが、このこどだ。」
(おまえが、六左衛門さんと結婚したくてたまらないのは、寺沢の百姓たちはみんなわかってるよ。今、この村で皆が一番興味もって、おもしろがって話してるのは、マグダレナの恋が実るか実らないか、このことだよ。)

マグダレナ
「やんだーーーーっ。うそだべー。おら、村の人さそんた話したごど一度もねもん。」
(やだー。うそでしょ。私、村の人にそんな話したこと一度もないわ)

太郎右衛門
「うそでね。村中がおめの恋に興味しんしんだなだ。結婚でぎるがでぎねがで、かげしておもしえがってる人らもいるなだ。おら思うによ、村中の誰も、おめの応援してるなしゃ。大びゃくしょのお嬢さんの長年のおもいが、かなって幸せになってもらいでなって」
(うそじゃないよ。村中がおまえの恋に興味しんしんだよ。結婚できるかできないかでかけをして楽しんでるやつらもいるよ。おれが思うに、村中の誰もがおまえを応援しているな。大百姓のおじょうさんの長年の想いがかなってしあわせになってほしって)

藤兵衛
「んだな、村のひゃくしょみんな、おめど六左衛門が結婚できるようにって思ってるよ。まちげねなー。」
(そうだよ。村の百姓はみんな、おまえと六左衛門が結婚できるようにって思っているよ。まちがいないな。)

マグダレナ
「したけっど、おら、そんただごど何もしらね。」
(だけど、私、そんなこと何もしらないわ。)

太郎右衛門
「しらねのは、おめだげだ。マグダレナ。わっはっはっは。」
(知らないのはおまえだけだよマグダレナ、わっはっはっは。)

「マグダレナの雪のようにま白い、きれいだ顔だば、さっきあおざめでいだのに、今、りんごこみでたく、まっかっかになってる。湯気までたちのぼりそだ。」
(マグダレナの雪のように真っ白い美しい顔は、さっき青ざめていたのに、今、りんごのように、まっかっかになっている。湯気までたちのぼりそうだ。)

藤兵衛
「マグダレナ。父さんも、祈ってるがら、おもいっきて勝負してみれ。敵はてごえ。なんたってしじゅうしまで、神さまのために独り身をつらぬいできた人だがら、勝ち負けにこだわるな。勝負じでいを楽しめ、かだのちからっこぬいでしゃ、気楽に遊ぶみでにやるなだ。あどで、後悔しねよにおもいきってやれ。」
(マグダレナ、お父さんも祈ってやるから、おもいきり勝負してみろ。敵はてごわいぞ。何しろ44才まで、神のために独身をつらぬいてきた人だ。勝ち負けにこだわるな。勝負自体を楽しめ。肩の力をぬいて気楽に遊ぶみたいにやるんだよ。あとで、後悔しないように思いきってやるんだよ。)

 マグダレナは、燃える目をして、大きくうなずきながら聞いている。

太郎右衛門
「んだ。マグダレナ。じっぱりやれ。どうどうと、かがっていげ。それでまげだら、わも、みんなも、なっとぐするべった。おじさんもよ、いのってるがら、やってみれ。」
(そうだよ。マグダレナ、大いにやれ。堂々といどんでいって、それで負けたら、自分もみんなも納得する。おじさんも祈ってやるからなっやってみろ。)

マグダレナ
「うん、とうさん、おじさん、大好きだよ。おら、いのちがけで、どうどうと、かがっていぐがら。」
(うん、お父さん、おじさん、大好きよ。私、いのちがけで、堂々といどんでいくわ。)

 藤兵衛と太郎右衛門が笑顔でうなずいている、シストとカタリナは不思議なものを見るかのようなおももちで、この会話を聞いていたが、(このあたりの日本人じゃないみたいな人たち)に、さらに驚いてしまっている。シストがささやく。

シスト
「カタリナ。なんて積極的で、前向きで、さっぱりして、こだわらないんだろうね、このあたりの人は。」

カタリナ
「うん、シスト、私、このあたりの人って、愛情と勇気にあふれてるって思う。」

シスト
「そうだね。それに正直だし、あけっぴろげだし、ぼくは大好きだ。」

カタリナ
「私もよ。」

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2009年7月4日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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「33年」(70)神様のためにおもしぇごど

「33年」(70)神様のためにおもしぇごど
 数日後、シストとカタリナは、今度は寺沢藤兵衛の家にきている。寺沢太郎右衛門もよばれている。六左衛門は、まだ伝道旅行から帰ってきていない。マグダレナは、カタリナのよこに来てすわっている。シストのいたずらの計画を、目を輝かせながら聞いている。

藤兵衛
「んだんすか。林の親分がいうとおりなだば、おらだじひゃくしょどほりごだどはしぇはんていだな。」
(そうですか。林の親分のいうとおりだったら、私たち百姓とほり子たちとは正反対ですね。)

 太郎右衛門もとなりで大きくうなずいている。

太郎右衛門
「んだ。んだ。おらだひゃくしょだば、ご先祖さまがらうげついだものだば全部、たいせづにしてよ、それひぎついで、子どもどがまごどがさ、みんなつたえようっていっしょけんめいだがらなあ。」
(そうだ、そうだ。私たち百姓は、ご先祖さまから受けついだものは、全部大切にして、それをひきついで子や孫に全部つたえようって一生懸命だからな。)

藤兵衛
「シストせんしぇ、かぐれねで、どうどうと仏教徒に偽装するっていう、いだづらだば、やってみる価値(あでぃ)が大いにあるべ。おらもこのあだりでは、うまぐいぐど思います。いいひどだじだ、おもしゃひどだじだ。いねよりいだほうがづっとたのしいって、大事にしてくれるんでしょね。」
(シスト先生、かくれないで、堂々と仏教徒に偽装っていういたずらは、ためしてみる価値が大いにありますよ。私もこのあたりでは、うまくいくと思いますよ。いい人たちだ。おもしろい人たちだ。いないよりいた方が、ずっと楽しいって、大事にしてくれてるでしょうね。)

太郎右衛門
「んだ、んだ。なんとが、やってみるべ。なんにもわりごどしねひゃくしょらが、役人だがらいじめられで、おもしゃえやりがだで、じょんぶに生きでいだら、このあだりの百姓だったら、心のながで、応援してくれづべをん。むしろ、あったかく助けてけるべをん。とにかぐ結果、気にしねでためしてみるべ。」
(そうだ、そうだ。ぜひ、やってみましょう。なんにも悪いことをしない百姓たちが、役人たちからいじめられていて、おもしろいやり方で、たくましく生きていたら、このあたりの百姓だったら、心の中で、応援してくれますよ。むしろ、あったかくたすけてくれますよ。とにかく、結果を気にせずためしてみましょう。)

藤兵衛
「んだ。んだ。まずやってみるってごどが大事だな。せいいっぺやってみれば、道っこひらぐべをん。ためしてみで、だめだったどしても、ためしてみるごどを楽しめば、おもしろがったって、神様さ感謝できるんだがら、何もそんしねな。」
(そうだ、そうだ。まず、やってみるっていうことが大切です。せいいっぱいやってみたら道が開けますよ。ためしてみてだめだったとしても、ためしてみることを楽しめば、おもしろかったって、神様に感謝できるんですから、何にもそんしません。)

太郎右衛門
「ただがいは、あいでがつえければつえほど、ただがいじでいがおもしぇわげでよ、家康と秀忠ど徳川家だったら、日本一強い相手だがら、おもしぇして、おもしぇして、しかだねな。神様のために、おもしぇごどでぎるなんてまったぐありがで話しだ、わっはっはっは。」
(戦いは相手が強ければ、強いほど、戦い自体がおもしろいわけで、家康と秀忠と徳川家だったら、日本一強い相手だから、楽しくって楽しくってしょうがないってところだな。神様のために楽しめるなんてまったくありがたい話しだ。わっはっはっは。)

藤兵衛
「わっはっは」

マグダレナ
「あっははははは。」

 豪快、陽気、楽天的、そしてチャレンジ精神にみちた(このあたりの人)にシストとカタリナはあっけにとられて、顔と顔をみあわせる。

カタリナ
「ここは、本当に日本なの。シスト。」

シスト
「たしかにパードレたちを思い出しちゃうね。カタリナ。」

 笑いやんだ藤兵衛が、男らしい真剣な重さできりだす。

藤兵衛
「シストせんしぇ、関が原のただがいのあど、それまでなんびゃぐねんものこのあたり一帯を支配していだ、小野寺家が滅んでけでしまったけれど、ひゃくしょだぢはかわらねで、このとじさいぎでます。徳川家だって必ずいつがほろびるべっ、したけどかわらねでひゃくしょはこのとじさいぎつづけでるはずだ。」
(シスト先生、関ヶ原の戦いのあと、それまで何百年もこのあたり一帯を支配していた、小野寺家が滅んで消えました。けれども、百姓たちは変わらずこの土地に生きています。徳川家だって必ずいつか滅びます。しかし、変わらず百姓は、この土地に生きつづけるはずです。)

 皆、真剣になって、藤兵衛の話しに耳をかたむける。

藤兵衛
「これよ、ひゃくしょの強さは、とじさねっこはやがしてるなだもの。ただな、そうして生きつづけるひゃくしょが、とじ守るのどはちがってよ、目にみえねもののキリシタンの教えをよ、何百年も代々ついでいげるがどうがは、おらは、結婚が鍵だど思うんです。つまり、キリシタン同士が必ず結婚して、キリシタンの家同士がしんせぎになって、キリシタンだちがあだらしい血族をつぐっていぐなしぇ。」
(これが土地に根っこをはやした百姓の強さです。ただ、そうして生きつづける百姓が土地を守るのとはちがって、目には見えないものであるキリシタンの教えを何百年も代々ついでゆけるかどうかは、私は結婚が鍵だと思うんです。つまりですね、キリシタン同士が必ず結婚し、キリシタンの家同士が親戚になり、キリシタンたちが新しい血族をつくるんです。)

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2009年7月4日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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「33年」(68)ラテンな人たち……横手や湯沢の人たちのこと

「33年」(68)ラテンな人たち……横手や湯沢の人たちのこと
 湯沢の宿の一室に二人はいる。食事が終わりくつろいでいる。

シスト
「カタリナ、このあたりの人達をどうおもう?」

カタリナ
「私、大好きよ。うーん。めずらしいものが本当に好きみたい。そして、興味があるっていうことを全然かくさないわ。すぐにいろいろきいてくるもの。それでいて、相手の自由をそくばくしないわ。やさしく見守っているって感じ。ここの人たち自身がとても自由に考えて、はなして、ふるまってるわ。だからきっと他の人の自由もおおらかに認めるのね。うん、おおらかでやさしいわ。」

シスト
「めずらしいもの好きって言えているね。それと、お祭りが大好きで、一年中毎月お祭りをやってるよね。いろんな神様が大好きで、一人ひとりの神様のために、全部お祭りをするからだよ。本当にかわってるよね。それから、人なつこくて、あけっぴろげで、おしゃべり好きで、ぶっきらぼうで、とってもあかるいなあ。人生を楽しんでいるよね。」

カタリナ
「ええ。このあたりの人達って、自分たちとちがうよその人にすごく興味をもって、そのちがいをおもしろがって楽しんでいるわ。よそものを歓迎するって感じあるわよね。私、寺沢に来て、地元の人があんまりすんなりと受け入れてくれるんでびっくりしてるの。」

シスト
「六左衛門が、このあたりの人たちは、スペイン人やポルトガル人みたいだって言っていたのを覚えているかい。」

カタリナ
「ルイスは、ここに来た時、この宿屋でマグダレナの話しを聞いててね。ここの人たちは日本人じゃないみたいだって言ったのよ。」

シスト
「へー。この宿屋で。ぼくがいないところでだね。」

カタリナ
「シストは別の部屋で、翌日からの打ち合わせをしてたのよ。」

シスト
「そして、ルイスは、日本人じゃないみたいな、このあたりの人が気に入って、八重と結婚したってわけだ。」

 二人は、ゆかいそうに笑う。

シスト
「ぼくも、ルイスが気に入った(日本人じゃないみたいなこのあたりの人)がとっても気に入っているんだ。
 実はね、カタリナ、今、ぼくはこう考えはじめているんだ。神様が石見からここにぼくたちをこさせたのは、日本人じゃないみたいなこのあたりの人たちの中でしか実現できない神のご計画があるんじゃないかって。」

 二人は、夜がふけるのも忘れて楽しく語りあう。

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2009年7月3日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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「33年」(67)シストのワクワクするいたずら

「33年」(67)シストのワクワクするいたずら
 シストとカタリナと六左衛門は、昌寿院の家を出て、街道に向かって歩いている。街道に出ると、六左衛門は久保田に向かい、シストとカタリナは寺沢に帰る。逆方向に向かうので、そこでお別れだ。

シスト
「六左衛門、迫害はこれからどうなると思う?」

六左衛門
「うん。徳川家は、天領で代官を用いて行なったことを、諸藩にも行なわせるにちがいないって思っているよ。つまり、領民全員を調べあげて、一人残らずキリシタンを名簿に記入し、それから、あらゆる方法で信仰を捨てさせる。つまり、ころばせる。ころばないものは殺す……」

シスト
「キリシタンを一人残らず根絶しようと、徳川家は決めているのかい?」

六左衛門
「家康と秀忠は、自分の後継者たちのために、キリシタンの根絶に手をつけたんだ。徳川家が続くかぎり、これは続くだろうね。家康と秀忠の念願は、彼らの家系が続くこと、そればかりなんだよ。
 そして、その最大の障害がキリシタンだとみなしているんだ。そうだよ、シスト、徳川家はキリシタンを一人残らず根絶しようと、もう決めているよ。これから徳川家の支配力が増せば増すほど、迫害はてってい的になっていくだろうね。」

シスト
「そうか。やっぱりな。」

 シストは、そうつぶやくとだまって歩く。街道に出た。シストとカタリナは六左衛門とわかれ、寺沢に向けて歩きだす。今晩は湯沢で宿をとる予定だ。

カタリナ
「ああ、きれいだわ。」

 だんだん暮れていく空、右ななめ前に見える鳥海山、カタリナは美しさに感激しながらつぶやく。横手から寺沢までは、愛する夫、シストと二人だけで歩く旅だ。そして今晩は、シストと二人だけで湯沢の宿にとまる。シストは何かを一生懸命に考えながらだまって歩いているから、じゃましないように話しかけはしないが、カタリナはシストの横顔を笑顔で見る。

シスト
「ぶー。」

 その時、突然シストが吹き出して笑顔になる。

カタリナ
「あら、シスト、どうしたの?」

シスト
「うん。すっごくおもしろい、いたずらを考えついたんだ。」

カタリナ
「えーー。いたずらを考えついたの?」

シスト
「うん。困るだろうな……。アハハハハ……」

カタリナ
「いったい誰を困らせるつもり?」

シスト
「家康と秀忠と、その後継者たち全員。」

カタリナ
「えー。どんないたずら?」

シスト
「今日の昌寿院みたいにね。キリシタンのみんながみんな、どこから見ても仏教徒に見えるように偽装してね。そしてね、迫害されたら、江戸のキリシタンにみたいに、さっさと『ころびます』ってころび証文を出しちゃうんだ。そしたら、やつら、それ以上どうやって迫害できる?」

カタリナ
「わー、おもしろい。それって昌寿院みたいに、まわりの人はみんなそのこと知ってるのにやるのね。」

シスト
「そう、そのとおり。おもしろいだろう。」

カタリナ
「うん。みんなで、キリシタンらしくないふうにするって、とってもおもしろそう。周りの人は知っているっていうのに。」

シスト
「そして、この方法できっとぼくの夢がかなうよ。いつかぼくたちの血を継ぐものが、キリシタンとして愛する祖国、高麗のために働いてくれるっていう夢。キリシタンを根絶されてしまったら、この夢はかなわないからね。」

カタリナ
「私、ワクワクしてきたわ。いたずらって大好き。シスト、私もシストと同じ夢をもう描いているのよ。」

 シストとカタリナは、急に元気がみなぎってきた。

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2009年7月3日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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「33年」(66-2)岩瀬の御台・昌寿院のこと……再会

「33年」(66-2)岩瀬の御台・昌寿院のこと……再会
 何日かたった。六左衛門とシストとカタリナは今、昌寿院の家の中に座っている。侍女が、お茶を出している。昌寿院は、いない。外出中だったのだ。

侍女
「昌寿院さまは、もうそろそろお帰りになると思います。よく十一面観音のお社に祈りにいかれるのですけど、今日もそこに行ってらっしゃるのです。」

 六左衛門もシストもカタリナもびっくりしている。シストが六左衛門にきく。

シスト
「六左衛門。ここに木彫りの観音像がおかれているけど、十一面観音って何だい。」

 この木彫りの観音像は立像で、子どもはだいていない。

六左衛門
「この木ぼりの観音像は、シスト家の子安観音と同じで、マリアママだよ。十一面観音のことはよく知らないなあ。」

 シストとカタリナは、まるで尼寺のようなこの家、そして仏だんそっくりにかざられた木彫りの観音像とか、はじめてなので、とても不思議な気がしている。

侍女
「あっ。昌寿院さまが帰られたようですわ。」

 侍女が急いで部屋を出て玄関に向かう。

カタリナ
「どんな人かなあ。たのしみだわ。」

シスト
「うん。かわいそうな生い立ちのおひめさま……」

 昌寿院が入ってきた。シストとカタリナの思い描いていた「おひめさま」ではない。墨染めの衣に白い頭きん。どこから見ても尼さんそのものだ。若々しい、美しい声がひびく。

昌寿院
「ああ、イエズス、マリアママありがとう! また、六左衛門に会えるなんて!」

 昌寿院は、以前は「六左衛門さま」と言っていたが、今はもう「六左衛門」と言い、六左衛門も「昌寿院」と親しく呼んでいる。シストとカタリナは、昌寿院の姿に似合わないよろこびようと、そして子どものように「ああイエズス、マリアママ、ありがとう!」という言葉に目を丸くしている。

六左衛門
「昌寿院、突然やってきたけど、昌寿院が会いたがってたカタリナとシストを連れてきてあげたんだよ。」

昌寿院
「えー。カタリナとシストなの。まーうれしい。カタリナとシストは私の心の友で先生なのよ。」

 昌寿院がカタリナとシストにこういうものだから、カタリナとシストは面食らって言葉もでない。シストの頭は混乱してしまっている。その混乱をおさめるために、あいさつも忘れて昌寿院に質問する。

シスト
「あの、昌寿院って呼んでいい?」

昌寿院
「ええ、もちろん。私も、もうシスト、カタリナって言っているんですもの。」

シスト
「昌寿院はキリシタンだよね。仏教徒じゃないよね。」

昌寿院
「ええ、そうよ。」

 昌寿院は笑い出してしまった。でもシストは念をおす。

シスト
「キリシタンをやめたわけじゃなくて、今でもキリシタンだよね。」

 昌寿院の笑いは止まらないし、六左衛門もふきだした。

昌寿院
「今でもキリシタンよ。キリシタンの名にあたいしないとは思うけど。」

 シストが真顔で質問するので、よけいおかしくって、昌寿院と六左衛門が大笑いする。別の部屋にいてこのやり取りが聞こえてきた侍女たちが、たまらなくなってとうとう吹きだして笑いはじめた。それでもシストは質問をつづける。カタリナも興味しんしんだ。

シスト
「昌寿院が今でもキリシタンだっていうことを、まわりの人は知っているの?」

昌寿院
「ええ。知っているわよ。みんな知ってて知らんぷりしてくれているの。私がキリシタンをやめないから佐竹の殿から離縁されたって、こんな有名な話し、ここらあたりで知らない人いないわ。」

シスト
「この2月に、院内銀山奉行のペトロ人見さまが追放され、ペトロ梅津さまがキリシタンをやめたときはどうだった? 迫害は何かあった?」

 もうみんなの笑いはおさまった。昌寿院は、ほほえみながら答える。

昌寿院
「何にも。」

シスト
「まわりが冷たくなるっていうようなことも、まったくなかったの?」

昌寿院
「なかったわ。実はね……。佐竹の殿は、今でも参勤交代の行き帰りの度に、私をみまってくれるのよ。おしのびでね。」

シスト
「えー。本当に?」

 昌寿院は笑顔でうなずく。

昌寿院
「佐竹の殿は、キリシタンを憎んでいるのでも、恐れているのでもなくって、ただただキリシタンを憎んでいる徳川家をおそれているの。」

シスト
「ふーん。」

 シストは少しだまって考えている。

シスト
「昌寿院、お寺によくいくの?」

昌寿院
「ええ。私、十一面観音が好きで、よくいくのよ。」

シスト
「お坊さんたちとはつきあうの?」

昌寿院
「ええ。自然につきあってるわ。でもお坊さんたちもみんな、私がキリシタンだって知っているから、そっとしておいてくれるわ。」

シスト
「ふーん。」

 シストが、また考えはじめて、少しだまると、カタリナがかわいらしい口調で聞く。

カタリナ
「昌寿院、十一面観音てどんな観音なの。どうして好きなの?」

昌寿院
「十一面観音はね、女の人の姿をしていてね。頭をぐるりととりかこんで10個の小さい顔があってね、頭のてっぺんにもう一個小さい顔が前を向いてついているの。」

 カタリナは見たことがない十一面観音像を、聞いたとおり想像してみて言う。

カタリナ
「化け物みたいで気持ち悪いんだけど……。どうして、そんな像が好きなの?」

 カタリナのすなおな表現に、昌寿院は笑う。

昌寿院
「カタリナって正直ね。私ね、十一面観音を、マリアママと赤ちゃんの姿の天使たちになぞらえているの。」

 ニコニコしながら、じっと聞いてた六左衛門が、手をうって口をはさむ。

六左衛門
「あー。ケルビムだね。なーるほど。」

昌寿院
「そう。ケルビムちゃんたちなの。マリアママの頭のまわりを飛び回っているケルビムちゃんたちよ。」

六左衛門
「シストとカタリナも知っているはずだよ。ほら、有馬のセミナリオで、柱の飾りについていた天使だよ。子どもの顔で、あとは首の位置に小さなかわいいつばさが二枚あるだけ。おぼえてるだろう。柱頭をぐるっととりかこんでついていたやつだよ。カタリナはぼくに『あれなあに?』って聞いたことあるよ。」

カタリナ
「あっ、思い出した。すごくよく覚えているわ。私、首から下はどうしたのって聞いたっけ。」

六左衛門
「頭と顔だけの天使なんておかしいって、とうとう最期まで納得しなかったよね。」

カタリナ
「うん。」

 皆が、また笑う。そして、楽しい会話が続く。

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2009年6月17日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
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「33年」(66-1)岩瀬の御台・昌寿院のこと……再会

「33年」(66-1)岩瀬の御台・昌寿院のこと……再会
六左衛門
「カタリナ。ぼくは、これから藤兵衛さんの家に住んで、そこから、あちこち伝道の旅にでるんだよ。」

カタリナ
「うん。今、マグダレナから聞いたわ。うれしいわ。さあ、家にあがってよ。お茶のみながら話しましょう。話すことが山ほどあるのよ。」

 家には、おなかの大きな八重だけがいる。六左衛門が来たのに気づいていて、もうお茶を準備してくれていた。八重も六左衛門にだきつく。

八重
「あやーロクザエモン、ひさしぶりだな。」
(六左衛門、久しぶりね。)

六左衛門
「久しぶりだね、八重、かわりはないかい。」

八重
「かわったごどあるんし。」
(変わりはあるわ。)

六左衛門
「えー。どうしたの?」

八重
「おら、はらさこどもでぎだの。」
(私、おなかに子どもができたのよ。)

六左衛門
「本当。やー、おめでとう、八重。そして、カタリナも。初孫だね。カタリナとシストにとっては。」

 六左衛門は、カタリナをふりむく。

六左衛門
「あ、そうそう。忘れないうちに今日の大事な用件を話しておかなきゃ。カタリナの話しがはじまるまえにね。」

 六左衛門はすわって、お茶を一口すするときりだす。

六左衛門
「さっそく伝道旅行の話しなんだけど。昌寿院(しょうじゅいん)のところにも行くから、カタリナとシストをそこに連れていきたいんだ。シストが都合がいい日にいっしょに行こう。」

 カタリナが、目をかがやかしてうなずく。

カタリナ
「行く行く。シストも私も、昌寿院ていう人に会ってみたいって思ってたのよ。六左衛門ありがとう。」

 こうして話しは決まった。

 カタリナからはキリシタン追放令によって、全国の鉱山で院内銀山一ヶ所だけが迫害され、ペトロ人見が山奉行職をはくだつされ、出羽の国を追放されたことと、山奉行ペトロ梅津が銀山の他のキリシタンを迫害しないという条件でキリシタンの信仰を捨てる誓約したことまで、11ヶ月の間に起こったことを6カ月分話したが、晩ごはんのために六左衛門が帰る時間がきた。

六左衛門
「じゃ、また、今度ね。ところで、あの子安観音はマリアママとイエズスかい?」

カタリナ
「きゃー。忘れてた。そうよ。マリアママとイエズスよ。また、今度、このことを話すわ。またね。」

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2009年6月17日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
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「33年」(65-2)こんなに六左衛門が好きなのに……マグダレナの想い

「33年」(65-2)こんなに六左衛門が好きなのに……マグダレナの想い
 シストの家だ。カタリナが、洗濯物をとりこんでいる。少し遠くからカタリナを呼ぶ声がする。

マグダレナ
「マリアのかあさん。」

カタリナ
「あらー。マグダレナじゃない。どうしたの。」

 マグダレナがすぐそばまで来て、話はじめる。

マグダレナ
「マリアのかあさん。はなしっこしてもいいが? あのね……おら、心臓おがしぐなりそうなの。あだまもおがしぐなりそうなの。」
(マリアのお母さん、お話ししていい? あのね、私、心臓がおかしくなりそうなの。頭が変になりそうなの。)

カタリナ
「えー。病気なの?」

 カタリナが心配そうにマグダレナの顔をのぞきこむ。おでこに手をあてる。縁側にマグダレナをすわらせ、となりに自分がこしかける。

マグダレナ
「六左衛門がさっきおらのえさきたの。11ヶ月ぶりにしぇ。」
(六左衛門がさっき私の家にきたの。11ヶ月ぶりよっ。)

カタリナ
「キャー、六左衛門が来たの。うれしいわね。今度は何日、泊まってくれるの?」

マグダレナ
「六左衛門は、おらのえさすむっていったのしぇ。」
(六左衛門は、私の家に住むっていったの。)

カタリナ
「えー。マグダレナの家に住むの?」

マグダレナ
「うん。おら、それきいだとだんによ、心臓どがどがしてきて、あだまはなんも考えれねぐなって、たおれそうにふらふらになって、今でも、心臓どがどがしたまんまなのしぇ。」
(うん。私、それを聞いたとたん、心臓がドキドキして頭は何も考えられなくなって、たおれそうにふらふらになって、今でも心臓がドキドキしたまんまなの。)

 カタリナは、吹き出してしまう。

マグダレナ
「なしてわらうのよ、おらっておがしが? おらってへんだが? なんとしたらいいの? おら、六左衛門が大好きなの。一緒に住んだら結婚しでぐってたまんねくて気がくるってしまうがも。」
(何で笑うの、私っておかしい? 私ってへん? どうしたらいいの? 私、六左衛門が大好きなの。一緒に住んだら、結婚したくってたまらなくて、気がくるってしまうかも。)

 カタリナは、青ざめているマグダレナの真剣さに胸を打たれる。

カタリナ
「ごめんなさい、笑っちゃって。マグダレナは変じゃないわ。いちずで純粋なのよ。」

 カタリナは、マグダレナを胸にだきよせる。

カタリナ
「かわいそうに。こんなに六左衛門が好きなのに……。」

 同情心にあふれ、単純で、行動派で、子どものようなカタリナだ。

カタリナ
「実は、私、六左衛門の口から、彼が独身をつらぬくつもりだって聞いたことがあるの。でも六左衛門もあなたのこと好きよ。」

マグダレナ
「ほんとだがな? いっけもすぎっていってけねのに。」
(本当に? 一回も好きっていってくれないのに。)

カタリナ
「ええ。まちがいなく六左衛門はあなたのことを好きよ。二人はお互いに好きなんだから結婚しなきゃだめよ。
 よーし。私、二人が結婚するように祈っちゃおう。シストにも祈ってもらおう。シスト家全員で祈るわ。林の親分にもおかみさんにも祈ってもらうわ。
 うん。これっておもしろいわ。すごい、いたずらよ。六左衛門には秘密で、みんなで『神様おねがい!』って神様にたのみこむの。きっと神様はきいてくれるわ。でもかなったら六左衛門、泣いちゃうかしら。」

 カタリナは、いたずらっぽく笑う。カタリナは、まるで子どもだ。神様と仲良く遊んでいる子どもだ。

カタリナ
「マグダレナは六左衛門に、『好きです!』『良い妻になれます!』っていう二つのことを、おりあるごとに示していくのよ。いい?」

マグダレナ
「どんたふうにしてよ?」
(どんなふうにして?)

カタリナ
「そうね。食事をつくったり、せんたくしたり、さいほうしたり、女仕事をするときに示すの。」

マグダレナ
「うん、やってみるな。」
(うん。やってみるわ。)

 マグダレナは、新しい課題をカタリナに与えてもらって、やっとおちついたようだ。そこへ、六左衛門がやってきた。

六左衛門
「やー、カタリナ、久しぶり。なんだ、マグダレナここに来てたのか。どうしたんだい。だまっていなくなって。」

マグダレナ
「なんでもねー。ロクザエモンがきたごど、マリアのかあさんさ、おしえにいってきたんだ。」
(何でもないの。六左衛門が来たことをマリアのかあさんに知らせにきたの。)

六左衛門
「ああ、そうか、ちょっと心配しちゃったよ。」

 カタリナが、六左衛門とハッグする。だまって、しばらくだきしめながら、心の中でさっそく祈る。(神様。六左衛門がマグダレナと結婚する気になりますように。二人が結婚しますように。)

カタリナ
「どうかおねがい。」

六左衛門
「え、何がどうかお願いなんだい?」

カタリナ
「きゃー。ひとりごとなの。」

 カタリナは、マグダレナに目で合図する。いたずらっぽい顔だ。マグダレナもうれしそうな顔でうなずく。

マグダレナ
「おら、ばんげのまんまつぐりにけるべった。ログザエモン、おら、うんめーごっつぅおつぐるがらね。あごおじねよに、きよつけれな。」
(私、夕ごはんつくりに帰るね。六左衛門、私、おいしいごちそうつくるからね。あごが落っこちないように気をつけてね。)

 マグダレナのうしろ姿を見送る六左衛門の顔を、カタリナは見ている。そして、(やっぱり六左衛門は、マグダレナが好きなんだわ。顔にちゃんとそう書いてあるもの)と、自分の意見に自信を深める。

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2009年6月16日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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