「33年」(65-2)こんなに六左衛門が好きなのに……マグダレナの想い

シストの家だ。カタリナが、洗濯物をとりこんでいる。少し遠くからカタリナを呼ぶ声がする。
マグダレナ
「マリアのかあさん。」
カタリナ
「あらー。マグダレナじゃない。どうしたの。」
マグダレナがすぐそばまで来て、話はじめる。
マグダレナ
「マリアのかあさん。はなしっこしてもいいが? あのね……おら、心臓おがしぐなりそうなの。あだまもおがしぐなりそうなの。」
(マリアのお母さん、お話ししていい? あのね、私、心臓がおかしくなりそうなの。頭が変になりそうなの。)
カタリナ
「えー。病気なの?」
カタリナが心配そうにマグダレナの顔をのぞきこむ。おでこに手をあてる。縁側にマグダレナをすわらせ、となりに自分がこしかける。
マグダレナ
「六左衛門がさっきおらのえさきたの。11ヶ月ぶりにしぇ。」
(六左衛門がさっき私の家にきたの。11ヶ月ぶりよっ。)
カタリナ
「キャー、六左衛門が来たの。うれしいわね。今度は何日、泊まってくれるの?」
マグダレナ
「六左衛門は、おらのえさすむっていったのしぇ。」
(六左衛門は、私の家に住むっていったの。)
カタリナ
「えー。マグダレナの家に住むの?」
マグダレナ
「うん。おら、それきいだとだんによ、心臓どがどがしてきて、あだまはなんも考えれねぐなって、たおれそうにふらふらになって、今でも、心臓どがどがしたまんまなのしぇ。」
(うん。私、それを聞いたとたん、心臓がドキドキして頭は何も考えられなくなって、たおれそうにふらふらになって、今でも心臓がドキドキしたまんまなの。)
カタリナは、吹き出してしまう。
マグダレナ
「なしてわらうのよ、おらっておがしが? おらってへんだが? なんとしたらいいの? おら、六左衛門が大好きなの。一緒に住んだら結婚しでぐってたまんねくて気がくるってしまうがも。」
(何で笑うの、私っておかしい? 私ってへん? どうしたらいいの? 私、六左衛門が大好きなの。一緒に住んだら、結婚したくってたまらなくて、気がくるってしまうかも。)
カタリナは、青ざめているマグダレナの真剣さに胸を打たれる。
カタリナ
「ごめんなさい、笑っちゃって。マグダレナは変じゃないわ。いちずで純粋なのよ。」
カタリナは、マグダレナを胸にだきよせる。
カタリナ
「かわいそうに。こんなに六左衛門が好きなのに……。」
同情心にあふれ、単純で、行動派で、子どものようなカタリナだ。
カタリナ
「実は、私、六左衛門の口から、彼が独身をつらぬくつもりだって聞いたことがあるの。でも六左衛門もあなたのこと好きよ。」
マグダレナ
「ほんとだがな? いっけもすぎっていってけねのに。」
(本当に? 一回も好きっていってくれないのに。)
カタリナ
「ええ。まちがいなく六左衛門はあなたのことを好きよ。二人はお互いに好きなんだから結婚しなきゃだめよ。
よーし。私、二人が結婚するように祈っちゃおう。シストにも祈ってもらおう。シスト家全員で祈るわ。林の親分にもおかみさんにも祈ってもらうわ。
うん。これっておもしろいわ。すごい、いたずらよ。六左衛門には秘密で、みんなで『神様おねがい!』って神様にたのみこむの。きっと神様はきいてくれるわ。でもかなったら六左衛門、泣いちゃうかしら。」
カタリナは、いたずらっぽく笑う。カタリナは、まるで子どもだ。神様と仲良く遊んでいる子どもだ。
カタリナ
「マグダレナは六左衛門に、『好きです!』『良い妻になれます!』っていう二つのことを、おりあるごとに示していくのよ。いい?」
マグダレナ
「どんたふうにしてよ?」
(どんなふうにして?)
カタリナ
「そうね。食事をつくったり、せんたくしたり、さいほうしたり、女仕事をするときに示すの。」
マグダレナ
「うん、やってみるな。」
(うん。やってみるわ。)
マグダレナは、新しい課題をカタリナに与えてもらって、やっとおちついたようだ。そこへ、六左衛門がやってきた。
六左衛門
「やー、カタリナ、久しぶり。なんだ、マグダレナここに来てたのか。どうしたんだい。だまっていなくなって。」
マグダレナ
「なんでもねー。ロクザエモンがきたごど、マリアのかあさんさ、おしえにいってきたんだ。」
(何でもないの。六左衛門が来たことをマリアのかあさんに知らせにきたの。)
六左衛門
「ああ、そうか、ちょっと心配しちゃったよ。」
カタリナが、六左衛門とハッグする。だまって、しばらくだきしめながら、心の中でさっそく祈る。(神様。六左衛門がマグダレナと結婚する気になりますように。二人が結婚しますように。)
カタリナ
「どうかおねがい。」
六左衛門
「え、何がどうかお願いなんだい?」
カタリナ
「きゃー。ひとりごとなの。」
カタリナは、マグダレナに目で合図する。いたずらっぽい顔だ。マグダレナもうれしそうな顔でうなずく。
マグダレナ
「おら、ばんげのまんまつぐりにけるべった。ログザエモン、おら、うんめーごっつぅおつぐるがらね。あごおじねよに、きよつけれな。」
(私、夕ごはんつくりに帰るね。六左衛門、私、おいしいごちそうつくるからね。あごが落っこちないように気をつけてね。)
マグダレナのうしろ姿を見送る六左衛門の顔を、カタリナは見ている。そして、(やっぱり六左衛門は、マグダレナが好きなんだわ。顔にちゃんとそう書いてあるもの)と、自分の意見に自信を深める。
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2009年6月16日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社
http://lphakobune.web.fc2.com/33nen_065.html





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