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「33年」(63-2)お礼の品……マリア観音

「33年」(63-2)お礼の品……マリア観音
 そして、その日が来た。つけものとお茶を用意していると、戸がたたかれた。シストとカタリナは玄関の戸を開けて、外を見て、びっくり。すごく多勢の人が集まっている。江戸からきた約100人が、みんないる。林の親分と三太夫親分がつれてきたのだ。

 他にも、来れるキリシタンで、迫害のためにそのあと逃げてきた人は、みんな来たようだ。台が置かれていて、何かが白い布をかけられておいてある。そのとなりに杉の木の箱がある。クララが、そこに恥ずかしそうにして出てくる。

クララ
「おとうさん。おかあさん。ちょっときて。」

 シストとカタリナは、クララが何か代表してするみたいなので、「何だろう?」と顔をみあわせながら外にでてくる。クララはできるだけ大きな声を出す。皆に聞こえるようにだ。

クララ
「おとうさん、おかあさん。今日、お礼がしたくって、私たち集まりました。おとうさんとおかあさんがいなければ、私たちはいったいどうなっていたことでしょう。私は……」

 クララは、家も食べものもなかった日々と、生みの父親の斬首の遺体が切りきざまれたことを思い出して、しゃべれなくなった。泣きながらやっと言う。

クララ
「これ取って。これ、お礼の品。」

 シストが白い布をとる。あらわれたのはマリア観音だ。

カタリナ
「まあー。こんな……。どうしよおー……。」

 皆が手をたたいている。クララの涙に同情のもらい泣き。それに今、よろこびのうれし泣き。カタリナは、クララをハッグし、なぐさめながら、口は「ありがとう」をくり返す。シストは母性あふれるマリアママの姿に、たちまちとりこになる。イエズスもとてもかわいらしい。

(この石を彫って作ったマリア観音は、今、寺沢の殉教公園のてっぺんに「北向き観音」と呼ばれて、小さなお堂の中に置かれている。シストとカタリナの殉教の直後から、約4世紀にわたって、ここにおかれ、崇敬されてきている。)

シスト
「何てすてきなマリアママとイエズスの石像なんだろう。ぼくは、うれしくって胸がいっぱいで……」

 シストも感きわまってしまった。ここまでくるのに、ならずものたちをひきいて、神の国の敵と、祖国の敵と戦ってきた20年があるのだ。

 シストとカタリナが目の前にしているのは、ならずものたちが受け皿となって迎え入れられた品行方正なキリシタンたちだ。これは20年の実りのほんの一部にすぎない。

 今、現実に、ならずものたちの巨大な地下教会が存在し、そこに数万人の品行方正なキリシタンたちが全国から流れこんできている。

 しかし、シストとカタリナは自分をたいしたものだとは、これっぽちも考えない。実りの巨大さが、これは自分たちの手がらでは決してないのだと確信させるのだ。シストは続ける。

シスト
「皆さん、ぼくとカタリナはいったい何者でしょう。高麗(こうらい)から連行されてきた時は、ぼくは20才、カタリナは15才の若い夫婦。戦利品の奴隷。キリシタンでもなく、日本語も知らない、みじめな二人でした。

 そんな、ぼくたち二人がいったい何をしたというのでしょう。二年後、石見銀山に連れていかれてから、その時、その時、神様が思いつかせてくれることを、そのとおりにやってきただけです。

 神様ご自身が全てをなさったのです。ぼくたちはただ、神様に道具として使っていただいただけです。ぼくもカタリナも、立派なことは何もできない人間で、最低最悪で、何も知らない子どものような者です。

 ぼくたちは、祖国の敵、秀吉と侵略軍をゆるせない、愛せない、祝福できないでいた長い期間、自分たちが最低最悪の人間だって痛感させられました。

 二人は、その時から、どんな悪い子も決して見捨てないお母さんのマリアママのことが理解できるようになりました。そして、マリアママ的な地下教会をつくろうって語りあってきたんです。

 ならずものたちではじまり、今、信仰を捨てると誓約した人も、苦しみは耐えられないと迫害をさけて逃げてきた人も加わったので、この地下教会は、どんな子も見捨てないマリアママ的な地下教会だということが、本当に証明されました。この石像は、そのしるしのように見えます。

 マリアママ的な地下教会の姿のように見えます。皆さん本当にありがとう。この石像はぼくたちの家で大切にあずかります。ぼくたち二人が殉教したら、この石像は皆さんのものにしてください。」

 聞いている皆は、「マリアママ的な地下教会」「どんな子も決して見捨てないマリアママ」という言葉に感動している。神さまは、そしてマリアママは、どんな悪い子も決して見捨てないというのは、何とすばらしいことだろうと。

 それだけでなく、皆は、この大将と女大将自身が、どんな悪い子も見捨てない、羊のためによろこんで命を捨てる本当の牧者だと思う。

 今、シストとカタリナは見つめあい、ほほえみをかわす。それを見て、カタリナにだきついていたクララがいう。

クララ
「おかあさん、おとうさん、となりの箱にはお礼のお手紙がいっぱいはいっているの。」

 シストがふたをとった。手紙がふちまでいっぱいだ。ぶ厚いものもけっこう多い。実はこの手紙は、お礼だけが書かれているのではない、当然のことだが、それぞれ書いた人の体験が書かれているのだ。それを読むことでシストはいろいろな情報を得、今後に役立てることになる。

 このびっくりプレゼントの贈呈式のあと、シストの家では学校について話し合われ、ヨアキム近江夫妻が中心となって、信仰教育の学校がはじめられることになった。ヨアキム近江とエリザベータ近江は、こうして中心的なキリシタンとして、今後10年間働くことになる。

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2009年6月14日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

http://lphakobune.web.fc2.com/33nen_063.html


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