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ことし 一年、

ことし 一年、
ありがとうございますた♪

来年もマリアママのやさしい愛が 皆さんにいっぱいありますように♪


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今日というか、昨日の「あかね」と「やよい」♪

今日というか、昨日の「あかね」と「やよい」♪
まだ着陸していないよ♪

 マリアママ、ガブリエルちゃん、アンナリアちゃん、アレンドゥスちゃん、よろぴくね♪

着陸したら、みんなに知らせるよ〜♪


【 取材etcの連絡先 】
  〒012‐0106
  秋田県湯沢市三梨町字清水小屋14
  リトル・ペブルの「清水小屋」共同体
  ジャン・マリー杉浦洋 神父
  Father Jean-Marie of the Risen Son of God
  TEL/FAX: 0183−42−2762
  Eメール:charbeljapan@nifty.ne.jp
  URL : http://homepage1.nifty.com/charbeljapan/


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薪ストーブで

薪ストーブで


薪ストーブで

薪ストーブで
ジュージュー♪


薪ストーブ♪

薪ストーブ♪
そして 火をボウボウ燃やす♪


薪ストーブの上に

薪ストーブの上に
鍋がいっぱい♪


今日のねこちゃんのお昼ご飯は

今日のねこちゃんのお昼ご飯は
薪ストーブで作ったインスタントラーメンなのにゃ♪


「33年」(55)同じ祖国を愛し、同じ神を愛し

「33年」(55)同じ祖国を愛し、同じ神を愛し
 1612年、春。この年、院内銀山の年間銀産量は20トン。人口は2万人に達するのだが、発展著しいこの銀山に、もう一人山奉行が任命された。かつてペトロ人見から洗礼を受けた久保田藩でも名高い家臣ペトロ梅津政景だ。山奉行二人体制、そして二人ともキリシタン。この地でペトロ人見は、久保田城下で伝道した6年間の数倍もの人々に自分の手で洗礼をさずけた。カタリナからたのまれたライ病人小屋の人々全員にはもちろん、六百人にだ。二人のキリシタン山奉行にとっても、シストやカタリナたちにとってもうれしかったことは、同時期にフランシスコ会の同宿たちが数人、次々と太平洋がわから日本海がわへ山をこえて出羽の国にはいり、院内までも巡回してキリシタンたちをはげましてくれたことだ。彼らは江戸から仙台へきた同宿たちだ。彼らは江戸でライ病人を世話し、教えている。
 フランシスコ会は最も貧しい人たちに最も伝道の力を注ぐ会だ。それで、カタリナ、林のおかみ、マグダレナ、そして八重という寺沢村の百姓の娘さんで寺沢金山の精錬部門の鉱石の選別の仕事をしに来ている14才の女の子、この4人がやってる、ライ病人のキリシタンたちへの慈善の活動を聞いて、4人といっしょにライ病人の小屋へ行ってくれた。それでカタリナたちとは特に仲良しになった。彼らはマグダレナの家、つまり寺沢藤兵衛の家に宿泊したのだ。そしてもちろん山奉行たちにも会ってはげましあっている。八重は長男のルイスが、ぼくが気に入った人だといってシスト家につれてきた人だ。
 1612年の秋、19才になったルイスと15才になった八重は明日、結婚する。夜遅くまでシストとカタリナとルイスは食卓で語りあった。突然ルイスは少しあらたまって話しだした。

ルイス
「お父さん。実はぼくはお父さんがいつもうらやましかったんだ。」

シスト
「ほー。なんで。」

ルイス
「お父さんとお母さんは精神的に一致している。信仰も一つ。愛も一つになっている。同じ祖国を愛し、同じ神を愛して。お父さんは祖国に帰れないけど、お父さんはお母さんが祖国なんだ。なぐさめや、やすらぎや、あたたかさや、よろこびの全てをお母さんからもらってる。」

シスト
「本当にそうだね。」

ルイス
「ぼくは、これからお父さんのように幸せな男になるよ。」

カタリナ
「私にとっては逆にシストが祖国だわ。」

ルイス
「うん。八重にとって、ぼくはそんな夫になって、彼女をきっとしあわせにするからね。」

 翌日、ペトロ人見が来てくれ、二人の結婚式に続いて、八重の洗礼式を行なってくれた。アガタという洗礼名をペトロ人見がつけてくれた。シスト家にキリシタンのお嫁さんが来たのだ。皆の喜びはたいへん大きい。仲良しになったマタギの村の人々が、前日にとった獲物のレバーとホルモンを「お祝いだ」といって届けてくれたので、カタリナ鍋が用意され、多くのお客さんにふるまわれた。カタリナ鍋の評判もこうして広まっていく。
 春に来たフランシスコ会の同宿たちは、カタリナが高麗人だと知ったので、その時、シストやカタリナに、自分たちの最大の支援者であった高麗人の若い女性について話してきかせてくれた。太田ジュリアという名だ。江戸城に5年前の1607年の夏までいて、今は駿河に行ってしまったが、江戸にいる間は、フランシスコ会のパードレや修道士の活動を多額のきふで助けただけでなく、貧しいキリシタンのために服や食物をほどこした。江戸城でのできごとを知らせて、今はこうしろ、あるいはこうするな、今こそこの殿、あの殿を訪問しろと助言して助けてくれたといった。また、今、江戸で最も活躍しているキリシタンは、ハチカン・ホアキンという高麗人で、ルイス・ソテロ神父を家に迎え、家を教会としていて、老人だが、4年前に高麗人の妻と二人で洗礼を受け、2年前からフランシスコ会の信心団体の会長として働いているといっていた。シストとカタリナは、江戸でキリシタンたちの中心となってきたのが高麗人だと聞いてびっくりした。祖国を愛し、同胞を愛している二人にとって、これは本当にうれしい話だったのだ。

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2008年11月22日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

http://lphakobune.web.fc2.com/33nen_055.html


「33年」(54)カタリナ鍋

「33年」(54)カタリナ鍋
 その日の晩、住んでいる急ごしらえの小さな家でシスト一家は食卓をかこんでいる。今日、買った毛皮となめし皮をカタリナが見せおわったところだ。

カタリナ
「病気が重くなった人を、まだ病気が軽い人が世話をしてあげて助けあっているの。街道をゆく人のほどこしをたして何とか食べていっているの。私が買い物したんで助かったっていってくれたわ。でもあんまりにも貧しいの。お願い。私たちは金持ちよ。あの人たちに分けてあげさせて。」

 シストは石見銀山に来て間もないころ、カタリナの愛の行為で全てがはじまったのを思い出しながら聞いている。またそれがくりかえすのだろうか。シストは、カタリナの同情の愛からの行動が神によって祝福されるのを体験してきている。だからカタリナを信頼していう。

シスト
「さっそく。お金をもっていっておいで。」

カタリナ
「わー。うれしい。ありがとうシスト。それから私、このことをペトロ人見さまに話してみる。きっとペトロ人見さまは、あの人たちに教えてくれるわ。そして、きっとあの人たちは全員洗礼をうけたくなるわ。」

 何と単純なカタリナ。シストもそれが良いと思う。というより、カタリナの考えはすばらしいと感嘆する。

カタリナ
「それからシスト、マタギのミカエルさんがね……」

 とカタリナは、けものの肝臓とか小腸とかの内臓が手に入る予定だと話す。

シスト
「すごいね。うれしいね。どうやって料理するつもりだい。」

カタリナ
「ここの味噌って、甘くてすごーくおいしいでしょう。私、ここの味噌で鍋物にしたい。『お父さんのにんにく』をすりおろしていっぱいまぜたらきっとおいしいわ。」

 カタリナは、「お父さんのにんにく」をここ寺沢にももってきている。また、カタリナが気に入っているこの地域の味噌は、他の地域の味噌とはくらべものにならないほど米こうじを多く配合している味噌だ。それで甘みが強く、レバーやホルモンに合うのだ。
 カタリナはまず、林のおかみとマグダレナをつれて、定期的にライ病人の小屋にかよいはじめた。食べ物や、まきがいつも十分あるように気をくばり、経済面でささえた。三人はペトロ人見に会いに行き、この話をした。ペトロ人見は、ぜひ行く、といい、彼もライ病人の小屋への訪問をはじめた。ペトロ人見は院内山奉行であるまえに、キリシタンの伝道師なのだ。そしてライ病人全員の洗礼へ向けての準備がはじまった。
 シストが指導してオンドルをつくった二軒の家がたった。カタリナは、皮の手袋と長靴を家族の為につくった。「マタギ」のミカエルのおかげで、彼の村の連中が、レバーとホルモンを売りに来てくれた。シストとカタリナはこれで鍋料理をつくり、林一家を皆よんで、二軒の家の完成を祝うことにした。かまどに大鍋がおかれ、レバーとホルモンと野菜が味噌とにんにくで煮込まれている。かまどの煙はオンドル部屋の床下に流れ、床をあたため、反対がわの煙突から出ていっている。シストはまず皆をオンドル部屋にあがらせた。床が温かくって皆はびっくり仰天。口々にシストをほめる。

ほり子たち
「シスト先生はすごいですね。」

 シストは高麗の技術がほめられたのだと受け止める。

シスト 
「ぼくはちっともすごくないよ。でも高麗の暖ぼう技術は世界一です。」

 カタリナが、おわんについで、皆に鍋料理をくばる。レバーとホルモンは小さく切って煮込んである。

カタリナ
「みんな、食べてみて。私の創作料理よ。何が入っているかあててみて。食べ終わってからね。」

ほり子たち
「いただきまーす。」

 みんな、うまいうまいとほめる。おかわりする人続出。鍋はたちまちからになる。そして皆のうち誰もレバーとホルモンについてはあてられない。たにし鍋に似ているから、たにしの仲間だろうとかいっている。

カタリナ
「にがいのが、かもしかの肝臓で、歯ごたえがあるのが、かもしかの小腸よ。」

ほり子たち
「げー。四足の内臓。」

カタリナ
「肝臓とにんにくで精がつくのよ。長生きできるわ。」

ほり子たち
「また、ごちそうしてください。食べにきます。」

 林の親分はこのやりとりに大笑いしている。林のおかみは、カタリナを手伝ったから最初っから教わっていたけど、こわごわ食べていた。

林の親分
「おれが名前をつけてやる。カタリナ鍋だ。てめえらこれからカタリナ鍋って呼ぶんだぞ。わっはっは。」

 これからたびたびカタリナ鍋は、ほり子たちにふるまわれることになる。暗い坑道内で目が良く見えるようになる。体力が長持ちするようになる。体があったまって寒さに強くなる。レバーとにんにくの効果で、ほり子たちの健康がぐっとよくなっていった。

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2008年11月22日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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「33年」(53)マタギのミカエル

「33年」(53)マタギのミカエル
1608年10月、シストは精錬の仕事をしばらく休んでいる。ルイスとヨアキムもだ。高麗式のオンドルをそなえた家を大工たちに建ててもらうために、一日中、彼らを指導しているのだ。林の親分の家とあわせて二軒だ。ルイスとヨアキムはオンドルを知らない。そのつくりかたからシストは息子たちに教える。カタリナは、日本の北国でのはじめての冬を前に、高麗で用いてた皮の手ぶくろと長ぐつをつくりたいと考えている。カタリナは藤兵衛に聞きに行った。マリアは、シストたちに預けた。

カタリナ
「藤兵衛さん。毛皮となめし皮を手に入れたいんだけど、どうしたらいいかしらない?」

藤兵衛
「うってるどごろあるがらんしよ。カタリナさん。びゃっごあるぐげど、おらどいっしょにくるが?」(売ってるところがありますよ。カタリナさん。ちょっと歩きますが、いっしょに行きますか?)

カタリナ
「はい。よかった。そんなお店があるなんて思わなかった。」

藤兵衛
「らい病にかがってしまった人らだがよ、わの村さででしぇ、きゃどぞいにあずまってすんでるどごがあってしぇ、そこで毛皮っこどがなめした皮っこうってらなしぇ。」(らい病にかかってしまった人たちが、自分の村をでて、街道ぞいに集まって住んでるところがありましてね。彼らが毛皮となめし皮売ってるんです。)

カタリナ
「かわいそうな人たち。その人たちと知り合って友達になりたいわ。」

藤兵衛
「びゃっこまってでけねが。」(ちょっとまっててくださいね。)

 藤兵衛は、カタリナの今の返事を聞いて、ちょうど良いチャンスだ。マグダレナをつれていこうと考えたのだ。大百姓の屋敷は広い。マグダレナをよびにどこかに行った藤兵衛が、マグダレナといっしょにやってくる。

マグダレナ
「マリアのかあさん。まりあげんきだが。」(マリアのお母さん、こんにちは、マリアは元気。)

カタリナ
「マグダレナ。こんにちは。マリアは元気よ。」

 出発した三人は話しながら、大きな街道に出て北へしばらく歩くと、街道沿いに、その店があった。店の裏手が、らい病の人たちの住んでいる小屋だ。店には、月の輪熊、鹿、かもしか、猿などの毛皮、牛や馬のなめし皮がある。店番の男が奥からやってきた。カタリナは、友達になろうと思っているので、名乗って話し出す。

カタリナ
「あの、私、高麗から来て、今、寺沢に住んでるカタリナっていいます。皮の手袋や長ぐつが作りたくって、材料を買いに来たんですけど……」

 店番の男の顔が、カタリナという名を聞いてニコッとした。らい病のために顔が傷だらけだ。

店番の男
「カタリナさん。あんた、もしがして……よ。キリシタンなだが?」(カタリナさんは、もしかしたら、キリシタンなんですか?)

カタリナ
「え。はい。」

店番の男
「おらもは、キリシタンなんだ。ミカエルっていうんだけどもよ。ここでは、洗礼うげだのおらだげなんだけどよ。キリシタンの教えの話しっこだば、みんな、きいでるよ。」(私もキリシタンです。ミカエルっていいます。ここでは、まだ洗礼をうけたのは私だけですが、みんなキリシタンの教えの話しは聞いてますよ。)

 マグダレナは、ミカエルの顔や手の傷にぎょっとして体をかたくしている。はじめて、らい病の人を見るのだ。

ミカエル
「ロクザエモンっていうへ、どうしゅぐが、年になんきゃがこごさきてくれるんだ。」(六左衛門っていう同宿が年に数回来てくれるんです。)

マグダレナ
「ろくじゃえもんのともだちなのが。ミカエルさんって。」(六左衛門の友達なの。ミカエルさん)

 マグダレナの顔が急に生き生きとした。マグダレナにとって六左衛門の友だちは、みんな良い人にきまっているのだ。カタリナも藤兵衛もびっくりした。六左衛門がここにも来ているなんて。

マグダレナ
「おら、ま・ぐ・だ・れ・な、おらも、ろくじゃえもんの友達だ。よろしぐねーっ。」(私、マグダレナ。私も、ろくじゃえもんの友だちよ。よろしくね。)

カタリナ
「私たちも、六左衛門とは、家族のようにつきあっているのよ。こちらは藤兵衛さん。皆、キリシタンです。」

ミカエル
「ほほ、こりゃーたまげだなー。うれしな。なんとよろしぐな。カタリナさんよ。おらはよ、「マタギ」っていってよ、狩するんだ。マタギも皮の手ぶくろどが長ぐづどがつかうんだ。」(これはうれしいな。よろしく。ところでカタリナさん私は「マタギ」っていって、狩をする人間でして、マタギも皮の手袋と長くつをつかうんですよ。)

 カタリナには、「マタギ」というものがわからなかったので、ミカエルはたくさん説明してくれた。このあたりの山々には数えきれないほどたくさんの月の輪熊、鹿、かもしか、猿、いのししなどがいる。川にも魚がいっぱいいる。それらをとって暮らしているのが「マタギ」だ。毛皮を売るだけでない。熊の胆(くまのい)のような動物由来の薬もつくる。話が動物の内臓などを薬にしたり食べる話になると、カタリナの目が輝きだす。かもしかの胃と腸のうまさは絶品だとか、「マタギ」は生でかもしかの肝臓を食うとかの話の途中、たまらず、とうとう口をはさんだ。

カタリナ
「ミカエルさん。私、肝臓とか小腸とかの内臓、特に肝臓がほしいんだけど、手に入るかしら。」

ミカエル
「んだったら、おらが、ほがのやづらによ、獲物しどめだら、はらわだ、きもっこもって、カタリナさんのえさよ、売りにいげっていっておぐべった。」(だったら、私がマタギの連中に、獲物がとれたら内臓、特に肝臓をもってカタリナさんのところへ売りに行けって言いますよ。)

カタリナ
「わー。ありがとう。絶対おねがいね。寺沢金山のシストとカタリナの家よ。それからミカエルさん、今、私たちを皆に会わせてくれない。六左衛門の友達のキリシタンだって紹介して。何か助けてあげられることがあれば助けてあげたい。」

 こうして行動派のカタリナは、この日のうちにもうライ病人たち皆と友達になってしまった。それから、マタギたちとの交際もはじまることになった。

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2008年11月22日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

http://lphakobune.web.fc2.com/33nen_053.html


「33年」(52)戦略会議とシストのうちあけばなし

「33年」(52)戦略会議とシストのうちあけばなし
 宿屋のはなれの別室では明日以後の戦略会議がはじまっている。もちろんシストが中心だ。

シスト
「ここへは、ぼくに神からのうながしがあって来ました。もっている技術は、ぼくの精錬、親分たち一家の採鉱、採掘など、すべて日本で最高のものですが、ながれもののように来ているわけです。これをペトロ人見さまから呼びよせられたというかたちにして下さい。そうしたら最初から全員が指導者です。指導的立場にたてれば、近くの他鉱山にも指導者として派遣されるようになります。」

ペトロ人見
「わかりました。シスト先生。私が石見銀山から最高の技術者たちをよびよせたと明朝、役人たちに命じてふれまわらせます。明日は、寺沢まで行き、私が先導して明後日、寺沢金山に行き、そこの皆に私が紹介します。二晩、藤兵衛さんと太郎右衛門さんのところに宿をとります。その翌日は、院内銀山に同じく私が先導して入り、できるだけ多くの人に、一日かけて私が紹介します。」

六左衛門
「有馬から秋田まで、そうたびたびはこられないので、洗礼はペトロ人見にまかせるよ。できれば寺沢金山や院内銀山のつち親が、ほり子たちといっしょにそろって洗礼を受ける時は、つち親とほり子の「かための盃」のための盃に、水をいれたひょうたんから水を注いで、それで洗礼をさずけてほしいんだ。」

ペトロ人見
「へー。何だいそれは?」

 ペトロ人見が目を丸くする。そこで六左衛門と二人の親分が、まずどういういきさつでこのやり方になったかを説明し、次に30才まで生きられたら長生きというほり子たちの人生と生き方、考え方などを語った。

ペトロ人見
「わかりました。私も盃とひょうたんで洗礼をさずけます。鉱山の働き手たちについて私はもっと知りたい。皆さんから話をしっかり聞いて、よく理解したうえで彼らに伝道します。」

 シストが夜中、戦略会議を終えて部屋にもどってきた。カタリナは気がついて起きた。子どもたち、それにマグダレナはぐっすり寝ている。ふとんに入ったシストにカタリナが聞く。

カタリナ
「シスト。あなたの秘密って何?」

シスト
「カタリナ。あの時、皆は希望とよろこびにあふれていたけど。ぼくだけは違ってたんだ。ぼくは、ただ、ただ、ほっとした。心のそこでは今回のことほどこわかったことは今までになかったよ。ぼくの勝手な思い込みだったのではないかっていう思いが心をさらなかったんだ。それと、こんなに大きくなった地下教会のかじとりをぼく一人の決断でする、その責任の重さにつぶされそうだったんだ。でも大将としてそんなそぶりも見せちゃいけないってわかっているから、確信に満ちているようなふりをしてきたんだ。あの時、ぼくは心の中で、神様ありがとう。マリアママありがとう。ああ、こわかった。ああ、つぶれそうなほど重かった。今、はじめて確信がもてました。ほっとしました。って話ししてたんだ。」

カタリナ
「そうだったの。何も気がつあなかったわ。あなたは立派な大将だわ。私も皆も安心してついてこれたんだもの。シスト、ありがとう。一人で皆の分を全部せおってくれて。」

 シストは、まだ神がなぜここに彼らをこさせたのか、その理由のほんの一部分を知ったにすぎないのだ。それでもシストは今、感謝にみちて安心してねむりにつく。

 戦略会議で打ち合わされたとおり、ペトロ人見は全て実行した。新しい山奉行が石見銀山から最高の技術者集団を呼び寄せ、明日、明後日と彼らを紹介するという役人からのおふれで、寺沢金山でも院内銀山でも、驚きにみちて皆が話し合う。当日は、まさに、はなばなしいデビューと言ったところだ。

「高麗の世界最高の精錬技術の先生の……。日本で最も進んだことをやっている石見銀山からの……。最新の測量技術をもちいた坑道の掘り方の……。」 何一つうそではない。そして気さくな山奉行が大げさに石見の面々に尊敬を示しつつなのだ。迎える人々も大喜びだ。皆も来てまもないし、寺沢金山と院内銀山の将来性に金もうけの夢をかけてきている。ここは将来性ありと保証されたようなものだからだ。

 こうして歓迎されてシスト家と林の親分一家は寺沢金山に、三太夫親分一家は院内銀山に住みつき、地下教会づくりは銀山奉行の応援をうけて、この地でさらにのびていくのだ。

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2008年11月22日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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「33年」(51)湯沢にて(その2)

「33年」(51)湯沢にて(その2)
 シスト家、林の親分一家、三太夫親分一家が大部屋に勢ぞろいした。どよめいているのは、次から次へと教えられ、先ほどの武士が院内銀山奉行だと全員が知ったからだ。先に来て皆をまっていたペトロ人見に皆が注目する。ころあいよしと見てペトロ人見が立ち上がり、皆をすわらせる。そして歓迎の言葉を口にする。

ペトロ人見
「シスト先生。先生の奥さん、林の親分、三太夫親分、そして皆さん、院内銀山と寺沢金山に地下教会の本拠地を移しに、ようこそ来てくださいました。私はキリシタンのペトロ人見です。」

 石見からの一団のうち大人たちは、皆、息をのんだ。

ペトロ人見
「私は、初代院内山奉行に任命されたばかりですが、これは大抜てきでも栄転でも大出世でもなく、左遷なんですよ。ついこの間まで私は久保田藩の武士たちに西洋式の馬術を教えていたのです。もちろんついでにキリシタンの教えもね。」

 若いならずものたちの心は、この言葉で一気にほぐれた。ペトロ人見の人柄にぐんぐん皆がひきつけられる。皆が笑顔になったのを確認して続ける。

ペトロ人見
「家臣たちが私からどんどん洗礼を受けるので、殿様は困ってしまっていたところへ、院内銀山が開かれ、ちょうど私をかくしてしまうのに、いい穴があると思われたのです。」

 もう遠慮がいらないことがわかって皆は大笑いする。それがおさまるのをまって続ける。

ペトロ人見
「これにこりて私がおとなしくなるのを殿様はお望みのようですが、新しく開かれた銀山でひらきなおって大暴れしようというのが私の決意です。つまり、今までの何倍もの人にキリシタンの教えを教え、洗礼をさずけようと決心しているのです。」

 聞いている皆の口から、オーという声があがる。このすごい話しに感嘆しているのだ。

ペトロ人見
「この身にふりかかる結果としては、奉行職のはくだつと、久保田藩からの追放が数年先には確実にあるでしょう。その時が来るまで、できるだけ多くの人に洗礼をさずけたいのです。それにくわえて地下教会を全国の鉱山に広げる皆さんの仕事を全力を尽くして支えたい。」

 林の親分が思わず口をはさんでしまう。

林の親分
「てーいうことは、もとは人殺しやどろぼうだったかもしれねーならずものの、やましやつち親やほり子たちに銀山奉行さま、じきじきに教えて、じきじきに洗礼をさずけていただけるってーことですかい。」

 林の親分は、いつものようにすばやく先におこることを具体的に読んでイメージしている。そして信じられないといわんばかりの顔つきだ。

ペトロ人見
「そのとおり。この身の続くかぎり、そうするつもりです。」

林の親分
「信じられねー。いや、そりゃすげー。そりゃ、ありがてー。夢のような話しだぜ。」

ペトロ人見
「それだけではありません。近くの村々から百姓たちが、たくさん働きに来ています。女の子や男の子もたくさん。その百姓たちにも教えて洗礼をさずけたい。もちろん私の家来の役人たちにも。それから、久保田藩は、流れ者になって他国から来た農民たちを、新田開発のためにどんどん受け入れて住まわせています。実は、彼らの中にキリシタンが多いのです。私は、久保田城下で武士や町人や農民、あらゆる身分のもの数百人に洗礼をさずけ、彼らを組織化しました。今度も院内銀山、寺沢金山を中心に、あらゆる身分をふくんでキリシタンを広い範囲で組織化したい。皆さんの助けがあれば百人力です。神様のために、マリア様のために、心をひとつにして助けあいましょう。」

 男たちが、オーと大声でこたえる。

三太夫親分
「エイ、エイ、オー!」

男たち
「エイ、エイ、オー! エイ、エイ、オー! エイ、エイ、オー!」

 シストは、カタリナの手をギュッと強くにぎる。このさわがしさのなかなので、カタリナはシストの耳に口を近づけて聞く。

カタリナ
「どうしたのシスト?」

 シストもカタリナの耳に口を近づけて、

シスト
「あとで打ち明けるよ。ぼくの心のひみつを。」

 シストがニコッとする。カタリナは、うなづく。

 このあと二人の百姓が自己紹介をした。寺沢藤兵衛と寺沢太郎右衛門だ。

 大部屋での晩御飯が終わった。シスト、六左衛門、林の親分、三太夫親分、ペトロ人見、寺沢藤兵衛、寺沢太郎右衛門の七人の男は、別の部屋に別の席がもうけられてそちらに移動だ。マグダレナがだだをこねる。

マグダレナ
「おら、ロクジャエモンど、いっしょにいでがら、いっしょにいぐ。」(私、六左衛門と一緒にいたいから、一緒に行く。)

六左衛門
「だめだよ。夜おそくまで、むつかしい話しなんだから。カタリナ。マグダレナをつれていって、同じ部屋で寝かしてくれ。」

 カタリナがマグダレナの手をひくと、マグダレナはついてきたが、部屋について顔をのぞきこんでよくみると涙目だ。

カタリナ
「どうしても六左衛門と一緒にいたかったの?」

マグダレナ
「おめー、カタリナっていうなだべ。ログジャエモンど仲がいいんだべ、おらログジャエモンのごど、だいすぎなのによ、ログジャエモンはおらのごど、じゃまにすんなへー。」(あなたは、カタリナっていうのね。六左衛門と仲よしなんでしょう。私は、六左衛門が大好きなのに、六左衛門は私のことじゃまにするの。)

 マグダレナは唇をかむ。涙が、こぼれる。

カタリナ
「まあーーーー。」
 カタリナは同情心があふれてしまって、マグダレナをやさしくハッグする。横に立ったルイスが聞く。

ルイス
「どのくらい好きなの?」

マグダレナ「おら、ロクジャエモンと結婚してなだもん。そんくらいすぎなの。」(私、六左衛門と結婚したいの。そのくらいすきなの。)

ルイス
「お母さん。このあたりの人って、何か日本人じゃないみたいだね。」

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2008年11月22日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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「33年」(51)湯沢にて(その1)

「33年」(51)湯沢にて(その1)
 4日後、シストたちの一団は湯沢についた。城下町だ。道案内のキリシタンについていく。大きな宿屋に入っていく。奥から六左衛門が玄関まで出迎えに来た。色がすごく白い、ほっそりとした、ほんとうにかわいい、そして美しい女の子が手をつないでいる。その後ろから身分の高そうな武士が、ほんとうにうれしそうな顔をしてついてくる。そのまた後ろには、ゆうふくそうな百姓が二人。

カタリナ
「キャー。六左衛門。」

マリア
「ろくじゃえもん。」

 マリアが六左衛門の方へ両手をのばして近よると、六左衛門はあいたほうの手で軽々とマリアをだきあげる。マリアは首にだきつく。とにかく全員が、仲良しの六左衛門に出会って大喜びだ。

六左衛門
「みんな、おなかぺこぺこだろう。晩御飯はごちそうだよ。部屋に荷物をおいたら大部屋に集合だよ。」

 宿屋の人に導かれて今晩寝る部屋に皆、一度、散っていく。マリアが六左衛門にだかれているので、シスト一家はまだ残っている。六左衛門と手をつないでいる子は人形のようにきれいな子だ。

カタリナ
「六左衛門。この子はだあれ。」

六左衛門
「マグダレナ。」

カタリナ
「えー。うそでしょう。信じられない。」

マグダレナ
「なして、うそだなんていうなよ。しんじられねって……。おら、ま・ぐ・だ・れ・な だをん。」(何でうそっていうの。何でしんじられないの。私、マグダレナだもん。)

 カタリナとシストはびっくりぎょうてん。頭の中で長年イメージしていたマグダレナとあまりにもちがいすぎるのだ。9才の少女、マグダレナ。体つきは、まだ子どもだが、顔は女らしい美しさにあふれている。

マグダレナ
「ロクジャエモン!!。おらのごどで、おめ、おがしげったごど、この人らさはなしっこしたべ、んだ、んだべーっ。ログジャエモンのばーがー。」(ロクザエモン。私のことで、変なことこの人たちに話したんでしょ。そうに決まっている。六左衛門のバカ。)

 といいながら、マグダレナが六左衛門の背中を力まかせに平手でひっぱたく。バシーン。すごい音がした。

シスト
「やっぱり、マグダレナだ。」

カタリナ
「うん。」

 身分の高そうな武士にふりむいて、それから、他の二人にも目をやって六左衛門が言う。

六左衛門
「シストとカタリナとルイスとヨアキムとマリアです。」

 今度は、武士の顔が信じられないというふうに変わる。それから深々と礼をして、

ペトロ人見
「シスト先生、先生の奥さん、ようこそ来てくださいました。院内銀山奉行のペトロ人見です。」

 とあいさつするので、びっくりしたシストとカタリナは、どうしたらいいのかわからず、うろたえて六左衛門を見る。

六左衛門
「キリシタン同士、兄弟・姉妹だろう。今日は身分の差はなしで、……だよ。」

 それで意を決して、シストも名前で相手を呼ぶことにする。

シスト
「ペトロ人見さま、よろしくお願いします。」

ペトロ人見
「よろしくお願いするのはこちらのほうです。とにかくまず、部屋に行って荷物をおいて大部屋に。」

 シスト一家が宿屋の人に部屋に連れていかれるのを見送りながら、ペトロ人見が六左衛門に言う。

ペトロ人見
「見かけがあまりにも単純で無邪気そうなんで、予想とちがってびっくりした。子どもみたいな夫婦っていう印象だ。」

六左衛門
「そうか。そんな印象を受けたのか。あの夫婦も、子どもたちも、ぼくたち日本人のもっていない、ものすごい純粋さをもっているんだ。つきあえばつきあうほどわかってくるよ。僕たちとは全然違うって。」

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2008年11月22日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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「33年」(50)出羽 秋田への旅立ち

「33年」(50)出羽 秋田への旅立ち
 日本海を船が行く。秋田の港までは船旅だ。季節は夏。南風をいっぱい帆に受けている。長い船旅。林の親分一家と三太夫親分一家の20才前後の若いほり子たちは、体がなまってしょうがないとぶつぶつ言っている。今、甲板ではシストとカタリナが話をしている。子どもたちは少しはなれたところにいる。マリアの手を引いているのはヨアキムだ。ルイスは、ほり子の若者と話がはずんでいる。多勢が海風とながめを楽しんでいる。

シスト
「もうすぐ秋田だね。カタリナ。みんな若いから、たいくつして早く仕事がしたいっていっているけど、ぼくは仕事をしないでこんなにカタリナと一日中、一緒にいられる日々がもっとつづいてほしい。カタリナ、愛しているよ。」

カタリナ
「うれしい。私も愛しているわ。シスト。」

 カタリナがシストに甘えてだきついていく。シストは、肩にもたれかかったカタリナの頭をなでながら感慨深げに言う。

シスト
「やっぱり、ぼくたち、日本人の夫婦とはちがうんだね。」

 くっついていた二人は、はなれて顔を見合ってほほえむ。

シスト
「もうひとつ。この船旅の間、すばらしかったのはね、忙しさや疲れにさまたげられないで、子どもたちと心をふかくふれあわせることができたことなんだ。」

カタリナ
「ルイスとは、男同士の話しだったんでしょう。」

シスト
「うん。船旅がはじまったらすぐ、ルイスがこんなことを話しはじめたんだ。
 お父さんは、自分というものをしっかりもっていて、それをかくしたりなんかしない。お母さんも自分というものをしっかりもっていて、それをかくしたりなんかしない。お父さんとお母さんは、本当の相手をお互いに全部知っていて、お互いに愛しあっている。だから、本物の愛だ。僕もヨアキムもマリアも自分というものがそれぞれにしっかりあって、それをかくしたりしない。
 でも、日本人はそうじゃない。自分というものをもっていないみたいに思えるんだ。ぼく、実は、近くの村から鉱石の選別なんかの仕事をしにきてるたくさんの女の子のたちの中で、気になる女の子が何人かいたんだ、で、よーく見てたんだけど、やっぱり女の子たちも、本当の自分をかくしてださない。自分というものをしっかりもっていない。ぼくが、こういう相手と結婚したら、二人の間の愛は本物の愛なんだろうか。ねーお父さん、お母さんはどんな娘さんだったの。お父さんとお母さんの祖国、ふるさと、そこはどんなところで、どんな人がいるの。くわしく話ししてよって。
 それでぼくは、カタリナの最初の思い出から全部思い出してみたんだよ。ルイスとヨアキムに思い出すことはみんな話してやった。」

 シストの目は、心が祖国に飛んでいっているという目になった。

シスト
「ルイスとヨアキムが、ぼくの思い出を聞くことによって、祖国を共有しくれるのがうれしくってね。船旅の間中、ルイスとヨアキムにせがまれて、思い出しては話し、思い出しては話し、をやってたんだ。それでね……」

 ルイスは、ほほえみながらカタリナの頭を両手ではさんでしっかり自分の方に向けさせる。

シスト
「ぼくの心の中は、カタリナへの愛と祖国への愛でいっぱいなんだって、つくづくわかったよ。」

 カタリナはうれしくって、泣き出して、涙が目からあふれる。シストは、やさしくキスしハッグする。

 船は、秋田の港についた。久保田城下には三百人の武士や町人のキリシタンがいて組織化されている。ほとんどが、ペトロ人見によって洗礼を授けられた人たちだ。船からぞろぞろとおりてくる皆の中で、シストとカタリナ、林の親分夫婦、三太夫は、年がほり子たちよりぐっと上なので、すぐわかったらしい。さっそくキリシタンの港の役人があいさつし、名前を確かめる。

役人
「六左衛門さんから、皆さんが港についたら飛きゃくを寺沢まで走らせてくれるようたのまれているんです。それから、道案内役で、二人のキリシタンが湯沢までいっしょに行ってくれます。」

 これでもう安心だ。やっと歩けるぞと、元気いっぱい男も女も歩きだす。

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著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
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「33年」(49)神からのうながし 寺沢金山

「33年」(49)神からのうながし 寺沢金山
 1608年、出羽の国へ行ってきた六左衛門が石見にやってきた。彼はいつもシスト家、つまり唐人屋敷に泊まるのだ。最初来たときとても広く感じたこの家が、今はそうでもない。15才のルイスは背がお父さんのシストに並んだ。10才のヨアキムはもう職人としての訓練がはじまっていて、お父さんとお兄さんと一緒に仕事場にいっている。4才のマリアは、昼間はお母さんを独占。夜、シストたちが帰ってくると、今度はお父さんを独占しようとべったりだ。今もシストの横にきている。子どもたちが成長し、家財道具も増えた。そして今晩は林の親分とおかみがきている。食卓もせまく感じる。

六左衛門
「出羽の国へいくたびに会っている昔からの友人のペトロ人見が、院内銀山の初代山奉行になったんだよ。」

 六左衛門は、普通に話している。話の主題はペトロ人見の活躍で、久保田城下ですでに武士たちなど大勢がキリシタンになったとか、ペトロ人見というキリシタン武士の伝道の熱心さだ。しかし、林の親分が口をはさむ。

林の親分
「院内銀山にはもうすぐ石見からもキリシタンつち親の三太夫(さんだゆう)親分とその家族が出発して地下教会を広げるんだぜ。あいつはたのもしいやつさ。ところで、六左衛門は、今回は院内銀山と寺沢金山に立ち寄ったのかい。」

六左衛門
「ああ、ペトロ人見が案内してくれた。院内銀山の銀鉱石の産出量がものすごいので、諸国から人が急速に集まって、もう街ができてきているよ。すぐそばの寺沢金山は、まだそれほど人が集まっていないけどね。」

 このときだ。シストの心に突然、思いがけない考えがおこった。寺沢金山に行こうという考えだ。自分がいるところが地下教会の中心地だ。寺沢金山に行くということは、地下教会の中心地を石見銀山から寺沢金山に移すということだ。なぜ、そんな必要があるのか。シストにはさっぱりわけがわからない。しかし、そうすべきだという圧倒されるほど強いうながしを心に感じるのだ。

 その夜ふけ。かたづけものが全部すんで、カタリナがふとんに入ったとき、

シスト
「カタリナ。今、ぼくの心にとってもふしぎなことが起こっているんだ。ちょっと聞いてくれるかい。」

 とシストが小さな声で話し出した。

カタリナ
「うん。なあに。シスト。」

 シストは今晩の食卓で自分に起こったことをカタリナにうちあけた。カタリナは、返事にこまってしまった。カタリナにもさっぱりわけがわからない。

カタリナ
「明日、六左衛門に話してみたらどう。」

 いつものように単純にシストの考えに信頼し、夫に神さまが働きかけているのかもとカタリナは考え、こう答えたあとは眠ってしまった。シストは、なかなかねつけなかった。心の中の強いうながしは続いたままだ。理由をさがそうとするのだが、みつからない。それどころか、考えが勝手に動いて、すべきことがより具体的になっていく。時期は今だ。すぐに仕度にかかるべきだ。いっしょに林一家もいくべきだ。家は寺沢金山に建てるべきだ。技術の伝授の仕事は、寺沢金山と院内銀山をかけもちすべきだ、というふうに。結局、眠るのをシストはあきらめ、あかつきのころ六左衛門を起こして、夕べからのことを六左衛門に打ちあけた。話しを聞いているうちに、六左衛門は、これは神様からのインスピレーションを受けたのかもしれないと思ったが、慎重にならなくてはと考え、一言こう言った。

六左衛門
「それが地下教会のためになるのか、ぼくには分からない。うーん。ただ、ペトロ人見は大喜びすることまちがいなしだな。」

 その晩、シストは六左衛門と二人で林の親分の家におしかけた。林の親分とおかみもシストの話にはびっくりしてしまった。林の親分のコメントは、六左衛門のコメントにそっくりだった。

林の親分
「おれにはなんで寺沢金山にいくべきなのかさっぱりわからね。だがよー、三太夫親分は大喜びだろうぜ。」

 六左衛門も林の親分も、シストが地下教会を生み出してから14年間示してきたリーダーシップに信頼しきってやってきた。すごい成果をあげ、今も大発展が続いている。二人ともシストの決断にまかせようと思い、反対だ、とか、賛成だとかいわない。

林の親分
「シスト先生が行くって決断するなら、おれは一家をひきつれていくぜ。さあー決めてくれ。さまたげになるものなんかなにもねー。」

 これを聞いてシストは二日間まってみた。自分の心へのこのうながしが消えるか、強まるか。結果は、強まった。そして、やはり理由はわからないままだ。そして、なすべきことが具体的になるばかりだった。ジョヴァンニ三太夫親分一家と一緒に出発すべきだ。ひきつぎのために、今すぐ仕度にとりかかるべきだ……と。

 とうとうシストは決断した。地下教会のために神様がぼくに寺沢金山に行けとうながしていると信じて。一緒に行く人も、残って見送る人も、皆そう信じてくれた。皆が熱心に協力してくれて、仕度はたちまちにととのった。そして、彼らは旅立った。

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2008年11月22日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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「33年」(48)悪い子ほど愛してくれるもんね

「33年」(48)悪い子ほど愛してくれるもんね
 六左衛門が藤兵衛の家から出発して次に向かったのは横手だ。あの岩瀬の御台が名前を昌寿院(しょうじゅいん)と変えてわずかな侍女たちと住んでいる。

 出羽の国に伝道旅行するときは、いつも立ち寄ってあげる。そのたびに昌寿院はカタリナのことを聞くので、六左衛門は、カタリナがまさに祖国の高麗が日本人から侵略され、自分自身が日本人から連行され奴れいの身になっていたその時期に、日本人の未亡人やみなし子に愛徳の行ないをやって、ならずものの林一家のつち親からほり子全員をキリシタンにしてしまった話しとか、カタリナが愛を与えてきたことを話してやった。

 昌寿院は、カタリナがかわいそうな人々にしてあげることは、イエズスにしてあげることになるとならって大よろこびした話しを聞いたとき、受けるよりも与えることによろこびがあるというイエズスの言葉が思いだされた。

 それは、横手に来た年、つまり二年前のことで、この世で永続する愛をもらうことをあきらめた時だった。もらうことをもう考えずに、与えることを考えよう。そう考えてから実際に不幸な人を助けてきた。さびしげだった彼女が明るくなってきたのはそのときからだ。

 昌寿院は、マリア観音をもっている。木製で仏像のように見える。六左衛門と昌寿院はそのマリア観音の前で語り合うのだ。(彼女の宝物のこのマリア観音は、今は横手市の春光寺にある。春光寺のとなりの天仙寺に彼女はほうむられている。)

昌寿院
「カタリナの女の子は元気?」

六左衛門
「うん。マリアはもう歩きまわっているし、おしゃべりだよ。二人のおにいちゃんがいるからたくましい甘えん坊に育ってるね。」

昌寿院
「いいな。うらやましいな。私、甘えたことないの。甘え方も分からないわ。いつも人の目を意識しちゃうし、周りの評価を気にしちゃう。」

六左衛門
「そういえば、カタリナとシストは周りの評価をまったく気にしないなあ。シストはぼくと同じ36才だから、カタリナは31才か。でも二人とも寺沢村の7才の女の子みたいだ。」

昌寿院
「その子。どんな子なの?」

 六左衛門は、マグダレナのことを話してやる。酒のさかなの横どりには昌寿院もびっくり。

昌寿院
「まあー。ねえ、六左衛門さま、マグダレナはそんなに行儀が悪くって大丈夫。」

六左衛門
「たしかに行儀悪いなあ。でもお父さんからも、村の誰からも愛されている。お父さんも、ぼくも手をやいているけどね。」

 昌寿院は、考え込む。

昌寿院
「実は、私、神様やマリア様の前でも行儀良くしなきゃ、いい子でいなきゃって思っている。いい子でないと愛してもらえないんじゃないか、捨てられるんじゃないかって心配している。」

 こう六左衛門に打ち明ける。六左衛門もそれを聞いて考え込む。

昌寿院
「カタリナさんもシストさんも、そのマグダレナっていう子もきっと私と違うわね。」

 六左衛門はうなずく。

六左衛門
「カタリナとシストはね、マリアママのような地下教会っていうんだよ。それをつくるんだって。二人とこのことについて話したりするんだ。この意味はね、お母さんは自分の子だったら、どんな子も見捨てたりしない、そうだよね。マリアママは、全ての人のお母さんだから、どんな悪人でも決して見捨てない。最初、二人はこういう理解から出発したんだ。でも今はもっと進んでいてね。悪い子ほど愛される、できの悪い子ほどかわいがられる、手のかかる子ほどいとおしまれる、それがお母さんと子どもの関係だから、悪い霊魂を見捨てないなんていう言い方じゃ不十分。神様もマリアママも、悪い霊魂であればあるほど愛してくれるって、二人とも確信しているんだ。」

 六左衛門は、二人が神のあわれみと愛の大きさに関して、これほど大胆な信頼をもつきっかけになったのは……と林のおかみがカタリナに、「以前自分が売春婦で、しかもおなかの中の子を何人も殺した人殺しだけど、マリアママはどんな子も決して見捨てない。私も救ってもらえる。しあわせ」と言った時の話をした。

昌寿院
「六左衛門さま、私、自分の信仰の上での課題が分かってきました。やっぱり、神様やマリア様に甘えなくてはいけないんだわ。こんな私なんだけどって、ありのままに打ち明け話しをいっぱいするの。ごめんなさい。あまえられないの。こわがっているの。まずこう打ち明けなくっちゃ。そして、カタリナさんやシストさんを見習って、大胆に信頼して、ちっちゃなことまで心の中をみんな打ち明けて、それから、でも悪い子ほど愛してくれるもんね。許してくれるもんね。救ってくれるもんね。こう言わなくっちゃ。」 

 六左衛門は、これを聞いてびっくりする。カタリナとシストは出会った最初からちっちゃい子のようだった。ならずものたちと共に地下教会を生み、広げている今、二人はますますちっちゃい子のやり方で神をとらえるようになってきている。この二人のちっちゃい子のやり方を、二人に一度も会っていない昌寿院が、言葉で的確に表現したからだ。

六左衛門
「そうだね。甘えられない、甘え方もわからないって言ったけど、そういう打ち明け話しを毎日毎日くりかえしてゆけば、必ず甘えられるようになれるからね。」

昌寿院
「そう言ってもらえると希望がわくわ。」

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2008年11月22日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
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「33年」(47)ロクザエモンのケッチ

「33年」(47)ロクザエモンのケッチ
 六左衛門も地下教会のために教え、洗礼をさずける働きでも大忙しだが、出羽の国へ行くことも続けている。1606年、寺沢村に入ると、いつものように外で遊んでいたマグダレナが六左衛門を見つけた。まだ遠いのにずーっと走ってくる。六左衛門は、マグダレナの足が速いので感心している。もう7才だ。飛びかかるように抱きついてきた。ドシン。ギューッ。

マグダレナ
「ロクザエモン、おめー、どごがらやってきたんだぁ? いっつもどごがらくるのよ?」
(六左衛門。いったいどこからやってきたの?)

 マグダレナは、ハーハー言って息をしている。

六左衛門
「有馬からだけど、あっちこっちよりながらくるんだよ。」

マグダレナ
「んだながー。おら、アリマなんて、どごだが知らねな。こんどよ、おらどご、そごさつれでいってけねが。」
(そうなの。有馬ってどこか、私、分からない。今度、私を連れてって。)

 六左衛門は、困って、うーんとうなってしまう。

マグダレナ
「これがら、おめよ、どごさいぐのよ。おらどごも連れでいってけれ。」
(これからいったいどこにいくの。私も一緒に連れて行って。)

六左衛門
「教えない。連れて行かない。」

マグダレナ
「なして、なしてよ。ロクザエモンのケッチ。いじわるだな、おめだば。いっつもそうだおな。」
(どうして、どうしてなの、六左衛門のけち、いじわる。あなたは、いつもそうするんだもん。)

 マグダレナは、六左衛門をぶったたく。かなり痛い。六左衛門がくるたびに、マグダレナは、いっしょに連れていけとせがむのだ。毎回、断られても、いっこうにくじけない。今日も同じだ。マグダレナは、六左衛門と手をつないだり、腕をからませてよりそって歩いたり、おんぶをせがんでおんぶってもらたり、抱っこまでせがんで、ちょっとだよっと抱っこしてもらったり、うれしくって甘えまくる。それを、田にでている寺沢村の百姓たちがほほえみながら見ている。村人みんなが知っているのだ。キリシタンの先生、六左衛門は、大百姓の藤兵衛のおじょうさんマグダレナのあこがれの君(きみ)なのだと。子ども同士でもマグダレナはけんかでは負けない。からかわれたって平気だ。

友だち
「おめよ。マ・グ・ダ・レ・ナッ。ロクザエモンのごど、すぎなんだべー。いやーい。」
(マグダレナは、ロクザエモンが好きなんだろう。)

マグダレナ
「んだよ。おら、ログザエモンのごど、でーすぎだもん。んだがらなんなのよ。」
(うん。そうだよ。私、六左衛門が、大好きだもん。それがどうしたの。) 

 家の中でもマグダレナは六左衛門にすごく甘える。六左衛門のひざの上に、ちょこんと座るし、六左衛門の前に出された酒のさかなも、

マグダレナ
「ロクザエモン、おら、これ味っこみであげるがらね、あーん。」
(これ味みしてあげるね。あーん。)

 と、横どりだ。

 お母さんがいない子のマグダレナが、まるで実の母親に子どもがやるように、いっさい遠慮することなく堂々と甘えてくることに関しては、六左衛門はいつも受け止めてやっている。それにしても、すなおに自分の気持ちを表現するなあ、このあたりの人は、まるでポルトガルやスペインの人たちだ。日本人ばなれしていると、六左衛門は思う。

 さて、大人の会話しが、始まった。

藤兵衛
「あのんしよー。ロクザエモンさん、この村さよ、たまげだごどおぎだんだ。なんだがどいえばよ、金のこうみゃぐがみつかっただんし。」
(この村にたいへんなことがおこったんですよ。金の鉱脈が見つかったんです。)

 太郎右衛門ももちろんきている。

太郎右衛門
「そいでよ。すぐとなりのよ、院内っていうどごさはよ、なんと銀のコウミャグがみつがったんだど。」
(すぐとなりの院内には銀の鉱脈が見つかったそうです)

六左衛門
「ほーっ。そりゃー驚きだ。この村ととなりの村にねー。」

 寺沢と院内は、羽州街道の東側が寺沢で、西側が院内だ。地下教会に関わってきそうだな、と六左衛門はこのことを記憶にしっかりきざんでおく。シストや林の親分に伝えるべきこととして。

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2008年11月22日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
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「33年」(46)別れの時

「33年」(46)別れの時
 カタリナの産んだ女の子が、六左衛門から洗礼を受け、代母のマリア林の名をもらい、あまやかすことなく愛情をいっぱい注いでくれる両親と、強いおにいさんと優しいおにいさんにかこまれ、しあわせいっぱいに人生を歩みはじめた。その同じ時期、出羽の国、久保田城の大奥では、そういう家族愛を体験できず、愛情飢餓の傷を情緒に負った岩瀬の御台のその傷がますます深くなる状況が続いていた。夫から遠ざけられたまま、さびしく彼女は日を送っている。

 夫はキリシタンの信仰を彼女が捨てる気が絶対ないと確かめたあと、一度も彼女を呼んでくれない。別れることを、夫は決めたなと彼女は感じている。

 1604年が来た。前年、夫は横手城に城代としてもと二階堂家の家老だった人を入れ、横手の城下にもと二階堂家の家臣団を住まわせた。彼らは、皆、彼女と同郷のものだ。夫が、彼女のことで彼らとやりとりしていることが、彼女の耳に入ってきた。いよいよ来るべき時が来たのだと彼女は覚悟を決めた。

 ある日の朝、夫が、今日、昼に侍女をともなってくるようにと使いをよこした。夜にではなく、昼に来いということで彼女はわかった。侍女を二人ともなって会見の間でまっていると、夫が小姓を二人ともなって入ってきた。着座するなり、

佐竹義宣
「おまえを愛している。しかし久保田藩が、より大切だ。わかってくれるか。」

岩瀬の御台
「はい。わかっております。私もあなたを愛しております。でも、イエズスがより大切です。」

 覚悟していたからこそ、そして神の恵みでここまではしっかりと言えたが、今までの数々の別れとこの新たな別れが心の中で重なった、そのしゅんかん、情緒の傷がパカッと開いてしまった。彼女は、たたみに顔をふせて声をあげて泣き出した。あまりにも激しくおえつして泣くので、侍女たちもたまらずに両横で同じように泣いてしまった。

 佐竹の殿もあわれに思い、もう何も言わない。立ち上がり小姓をつれてでていった。翌日、もう夫ではない佐竹の殿から離えん状とこれからの指示を書いた書状が届けられた。それには、大奥を出て、横手に行けと書いてあった。20才の彼女は、その日、侍女たちに長い髪をそりおとしてもらった。もう二度と誰とも結婚しないというしるしである。

 1604年は、シストにとっておおいそがしの年だった。天領となり、奉行として大久保長安が治めるようになってから新しい採鉱法がこころみられ、年々、飛躍的にとれる鉱石の量が増え、精錬の部門は仕事量が激増してきている。それに加えて、この年、大久保長安が佐渡へ渡り、同様に天領である佐渡金銀山に石見から多くの山師、つち親、ほり子、精錬技術者を呼び寄せたのだ。1601年に開山したばかりの佐渡の金銀山の地下教会を拡大する最高のチャンスだった。熟練の技術者たちがいっきに減るのは大変だけれど、これから日本最大の金山になるだろうことがあきらかなこの佐渡へ、シストも多くの手下たちを送りだした。

 これとはまた別に、関ヶ原の戦いで天下をとった徳川家康にお国替えされて新しい領地の領主となった大名たちは、それぞれ新しい鉱山を開発しようとつとめたので、特に関東から北の諸藩で、次々に新しい鉱山が開かれつづける時代となった。それで、地下教会としてはどんどん新しいキリシタンつち親をつくって送りこまなくてはならない。忙しいが、大発展の時である。

 カタリナも忙しい、上の二人が元気な男の子で大変。そして、マリア赤ちゃんは生まれてまもないわけで、日々が夢のように過ぎてゆく。でもあとになってふりかえると、かわいい子どもにかこまれて、このころが一番よかったねっというにちがいない。

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著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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「33年」(45)女の子マリアの誕生

「33年」(45)女の子マリアの誕生
 1603年の10月、シストは、精錬の仕事で息子のルイスを指導している。自分の知識、技術、びみょうなコツ、かん、伝えるべきことは非常に多い。子どものころからお父さんについて手とり足とり教えてもらえる、ルイスは幸せものだ。超一流の職人になるだろう。林のおかみが来た。

林のおかみ
「シスト先生。奥さんが産気づいたよ。」

 外から大声で呼びかける。

ルイス
「お父さん。どうするの。」

シスト
「男は待つしかないんだよ。でも今日は仕事をみんなにまかせて帰ろう。」 

 3回目のお産だから生まれてくるのは早い。シストとルイスが家についたら、間もなくおなかからでてきた。見たら女の子だ。

シスト
「やったー。女の子だー。やったぞー。」

 これにはみんな笑ってしまった。カタリナのプレッシャーになるといけないと、今までシストは「女の子がいいな」などと一言も言っていなかったのだ。シストの優しい愛情だ。しかし、今、女の子が産まれたとわかった瞬間、思わず叫びまくってしまったのだ。カタリナも望んでた女の子でうれしいし、シストのこのよろこびを見て、しあわせを味わっている。林のおかみも大よろこびだ。
 ルイスとヨアキムぼうやは、お母さんの出産と新生児の女の子を見てすごく不思議がっている。

林のおかみ
「シスト先生。女の子の名前、考えてんのかい。奥さんは。」

カタリナ
「私は、シストのつけたい名前。」

シスト
「ぼくは、考えていたよ。女の子だったら林のおかみさんに代母になってもらって、マリアって名をもらおうって。」

林のおかみ
「だめだよ。こんな私みたいな女になったら、どうするのさ。」

シスト
「おかみさんみたいな女になったら、ぼくたちよろこぶよ。な、カタリナ。」

カタリナ
「うん。シスト。ねえ、おかみさん。代母、おねがいね。」

 林のおかみは、がらにもなくうれし泣きしてしまう。

林のおかみ
「うれしいよ。そんなに言ってくれて。でも本当に私のような女になってもしらないからね、う、う、う……」

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2008年11月22日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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「33年」(44)岩瀬の御台のこころの友

「33年」(44)岩瀬の御台のこころの友
 1603年、春、六左衛門が、石見銀山をおとずれると、カタリナのおなかが大きくなっていることに気づいた。

カタリナ
「六左衛門、私ね、もちろん神様におまかせしていて、男の子でも女の子でも感謝するけど、女の子が欲しいな。」

六左衛門
「そうだね。女の子だったらいいね。」

 六左衛門は、そう答えながら、若く美しく悲しげだった岩瀬の御台が目に浮かんでしまった。それで、まだ話していなかったあの身の上ばなしをカタリナとシスト、そして9才だからもう何でも大人の話しに興味があるルイスにしてやった。カタリナは、かわいそうにと言って涙をこぼしながら聞く。ヨアキムぼうやもそこにいる。5才だ。お母さんが泣くのでもらい泣きしている。わからないのに。この子は優しい子だ。本当に。

シスト
「女には自由が少ないねえ。六左衛門、そのかわいそうな人に、ぼくに教えてくれたようにさ、魂の自由だけはいつでもある。苦しみや悲しみを『この十字架大好き!』って大喜びでだきしめるか、『大きらい!』って言って不平不満だらけになるか、自分でえらべる自由がある。どんな苦しみも『この十字架、大好き!』ってよろこんで受け入れられたら、魂の戦いに勝ったっていうことで、その勝利に関してもよろこべるんだよって教えてやってほしいな。」

 六左衛門は、思い出して、なつかしそうな表情になる。

カタリナ
「そうだわ。あの涙のクリスマス。私も花嫁の愛を教えてもらった。イエズスと同じ苦しみ、同じはずかしめ、同じ十字架。イエズスを花むことして愛するなら、花嫁のしあわせは花むこと同じ運命にあずかることだって。その人にこれを教えてあげてよ。六左衛門。」

六左衛門
「うん、そうするよ。」

 六左衛門はこう言って、あとの言葉はのみこんだ。それを忠実に実行しているシストとカタリナのことも話そうと言おうとしたが、やめろ、やめて、と反対するに決まっているから、だまっていて許可なんかとらずに話してしまえと考えたのだ。そしてその通り実行した。

 岩瀬の御台は、シストとカタリナのことを知って、すごく心をうたれた。

岩瀬の御台
「私、シストとカタリナを模範にするわ。」

 シストとカタリナは、彼女の心の友となったのだ。

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2008年11月22日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
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「33年」(43)岩瀬の御台の悲しみ

「33年」(43)岩瀬の御台の悲しみ
 今、六左衛門は、久保田城の大奥に来ている。ペトロ人見の旧友として、彼とともに岩瀬の御台(いわせのみだい)に会いに来たのだ。ペトロ人見は佐竹の殿の家来たちに西洋式の馬術を教えていて、たいへん重んじられている。岩瀬の御台は、二人に自分の身の上ばなしをはじめた。

岩瀬の御台
「私ね、今、18才なんです。芦名家の当主だった父が私が生まれてまもなく家臣に切り殺されてしまったの。父を生んだ人が、女なんだけども、二階堂家の当主で、私の将来の夫を次の二階堂家の当主にしようと、私を実の母からひきはなして二階堂家の養女にしたの。でも私が5才の時に二階堂家は伊達政宗に攻められてほろぼされてしまったの。私とその当主だった祖母は落城したので自殺しようとしたのよ。でも家臣たちがそれをとめて、伊達家に私たちをわたしたの。祖母は、もともと伊達家の生まれだから、私たち殺されなかったわ。それで伊達がおさめる杉目城に住まわされたんだけど、祖母は伊達家の世話になりたくないって私をつれてそこを出て行ったの。杉目城にはそう長くいなかったわ。祖母は、岩城城の城主である人が親戚なのでそこに身を寄せたの。でもすぐにその人が小田原攻めに参戦してそこで病死してしまったので、私たち岩城城を立ちさったの。そのあと、祖母はまた親戚をたよって太田城の城主、私の今の夫の佐竹義宣のもとに私と行ったの。7才だったわ。
 私、父や母や兄弟や姉妹がいなくって、家族のあたたかさや、だんらんの楽しさっていうものもまったく味わったことがなくて、身のまわりではいつも戦(いくさ)と死と別れ……。親せき同士が殺しあったり……。私、愛情に飢えていて心のまん中にぽっかり大きな穴があいているようにいつも感じていて、満たされていないの。
 夫は関ヶ原の戦いで徳川家康側に参戦しなかったので出羽の国にお国替えされてしまってから、私がキリシタンであることを家康にとがめられはしないかとひどくおそれて、水戸城で結婚したときのようではなくなってしまっているの。永続する愛をあこがれていて、いつも求めてきたんだけど……。」

 岩瀬の御台はだまってしまう。しばらくしてもう一言。

岩瀬の御台 
「私、もしかして離婚させられてしまうかもしれない。たとえ離婚されても私はイエズスをえらびます。このお方だけは、私を永遠に愛してくださるのですもの。」

 六左衛門とペトロ人見はこの若く美しい姫をなぐさめるために、あとは純粋に信仰の話しをしあった。イエズスに愛されているということを、苦しみに満ちた人生を生きぬく力にしている人にとって、同じ愛と信仰に結ばれた人々とその信仰を語り合う時間は、どれほどなぐさめぶかいことか。そしてそういう機会は貴重で、そう多くはないのだ。

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2008年11月22日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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「33年」(42)1602年 出羽秋田への伝道

「33年」(42)1602年 出羽秋田への伝道
 1602年、秋、六左衛門は、出羽(でわ)の国の久保田、今の秋田市まで伝道旅行するようになった。以前からの友、キリシタン武将のペトロ人見九右衛門が、関ヶ原の戦いの結果、浪人の身になっていたのを久保田藩の藩主、佐竹義宣に召し抱えられ、そこの武士や平民の多くに伝道し、自ら洗礼をさずけはじめたからだ。そのうえ、佐竹義宣は、1602年、夏、常陸の国(ひたちのくに)水戸(みと)からやってきた時、キリシタンの側室、岩瀬の御台(いわせのみだい)とキリシタの多数の家来をつれてきており、急激にキリシタンが、出羽の国に増えているからだ。

 大きな街道(羽州街道)を北に進み、出羽の国に入り、峠から里におりると寺沢村がある。その村の大百姓、寺沢藤兵衛の家に泊めてもらった。六左衛門は彼と彼の親せきの寺沢太郎右衛門(てらざわたろううえもん)に、キリシタンの教えを語り、二人とも心を開いて聞き、信じてくれた。

 藤兵衛は先ごろ妻を亡くしたばかりで、たった三つの女の子一人が母無し子として残されていた。六左衛門は、ここを通る行き帰りには藤兵衛の家に泊めてもらい、さらに詳しくキリシタンの教えを説明し、とうとう藤兵衛一家と太郎右衛門一家に洗礼を授けた。そして、藤兵衛の娘にはマグダレナという名をつけた。父の藤兵衛にはヨアキム。太郎右衛門にはマチヤスという名をつけた。

 シストとカタリナに六左衛門はこの話しを聞かせてくれる。特にマグダレナについていっぱい話ししてくれる。三つ子の魂、百までもというが、聞くところによるとマグダレナは男まさりらしい。女の子のような遊び方はちっともしないで、男の子みたいにとっくみあったり、棒をふりまわしたり、石をなげたり、虫や動物を追いかけたりするらしい。六左衛門に荒っぽく高い高いをされたり、両手をもってぐるぐる大きく回されたり、かたぐるまで走ったりすると恐がるどころか、もっともっとと大喜びでせがんで六左衛門を疲れはてさせてしまうらしい。シストとカタリナの頭の中には男の子のようなきかんぼうのあばれものらしい顔をして、日にやけて真っ黒になった骨太のたくましい女の子のマグダレナのイメージが出来上がっていった。別に、六左衛門がそんな描写をしたわけではないが、その風変わりな行動をおもしろおかしく話しすのを聞いているうちに、かってにそんなイメージがわいたのだ。

 六左衛門が泊まりにくると、マグダレナは大喜びですごいいきおいでとびついてくるので受けとめるのが大変だ。どしんと遠慮なくぶつかってとびこんでくる。そして、六左衛門のあとを追いまわす。こんな男っぽい性格の子だし、六左衛門もままごとや人形遊びはやったことがないから苦手だし、武家の育ちだから、すもうやちゃんばらごっこで遊んでやる。そうするとマグダレナは本気になる。

マグダレナ
「ろくじゃえもん。おらさ、かがってこいっ!」
 (ろくじゃえもん私にかかってこい)

 おまけにマグダレナは負けん気が強くて、勝てないとべそをかき泣きながら勝つまでつづけようとしてやめようとしない。六左衛門もそうかんたんにわざとらしく負けてやったりはしないが、やめたくなるとうまく負けてやる。そうするとマグダレナは大喜びだ。

マグダレナ
「ろくじゃえもん。なんとだ、まいっだが。こうさんだが。」
(ろくじゃえもん どうだまいったか)

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2008年11月22日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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「33年」(41)地下教会がはたらきはじめる

「33年」(41)地下教会がはたらきはじめる
1601年の1月、再び大森の町で、こんどはあのお店を一軒まるごとかりきって祝宴がはられた。六左衛門ももちろんかけつけてきたし、キリシタンつち親の数は三百人を超している。前回の祝宴は、キリシタンつち親同士がはじめて顔をそろえ、自分たちの地下教会の発展ぶりを確認し、互いにはげましあう場ともなったので、皆のやる気を非常に高めるという結果になった。

今回も実に良いタイミングで皆が集まったのだ。というのは、関ヶ原の戦いで敗れた大名たちのうち、敗死したり処刑されたりしたキリシタン大名のおさめていた領民のキリシタンたちが、たくさん殺され、または領地を追われ、路頭に迷った。美濃の三千人のキリシタン、久留米の七千人のキリシタン、広島や山口のキリシタンたち等々だ。彼らの中から近い鉱山に逃げこむものが出はじめた。

とうとう地下教会が、本来の機能を果たしはじめたのだ。その彼らを受け入れたキリシタンつち親たちを交えての地下教会の大会となったからだ。皆、いよいよこれからだと感じているとき、自分たちの大将と女大将が自由になったというのに、祖国に帰ることよりも、自分たちのために日本に残って、自分たちと戦いつづけることを選んでくれた。

そう聞いた彼らは全員勇みたった。特に前回の祝宴に参加した人々は、シストとカタリナの熱烈な祖国愛を直接、見、聞き、知っている。その祖国よりも神の国のための戦いの方を二人が選んだ。つまり、自分の祖国よりも神の国を優先したということに、彼らは非常に感動し、ますます二人を誇りに思い、模範にしようと思うのだ。兵が大将を信頼し、誇りに思っていればいるほど、戦いの時、その軍隊は強い。シストとカタリナは祖国へ帰れるチャンスを犠牲にしたが、その代わり、この祝宴でキリシタンつち親という兵たちの連帯をつよめ、士気を鼓舞し、さらなる地下教会の発展にまいしんさせるという、むくいを得ることができたのだ。神はシストとカタリナの良い心に、たいへんな豊かさをもってむくいて下さったのだ。

六左衛門は、奴隷のみじめな二人、港で船からおりて目立ってたあの姿を思い出して、思い出をシストとカタリナとその晩、夜明けまで語りあった。ひと目みたときから、友情を感じた不思議。やはりシストとカタリナは何か特別なものを持っている。ならずものたちが、この二人に心服している。もちろんぼく自身もだ。これまでの二人とのできごと全てを思い出してさぐっても、まだつかみきれない何か。それをこれからもずっと二人といっしょに生きてさぐってゆきたい。この二人に出会えたことは、ぼくの人生で最高の宝だ。自由になれて本当におめでとう。七年以上も奴隷だった友が解放されたことを、六左衛門は心からうれしく思っている。

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2008年9月20日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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「33年」(40)自由の身 十字架の道

「33年」(40)自由の身 十字架の道
シストとカタリナにとって、こんなふうに自分たちが、地下教会のキリシタンつち親みんなから祝ってもらうことなんて、もうないだろうなと思っていた。シスト一家は、毛利氏にお金で買われた奴隷で、毛利氏のものだ。他のつち親やほり子や山師は、全国どこにでも移動できる。しかしこの二人は、毛利氏が派けんするところにしかゆけない。

この祝宴から約2年たった。1600年の暮れ、唐人屋敷に毛利氏の鉱山役人がやってきた。

鉱山役人
「シスト先生、奥さん。毛利氏はこのたび石見銀山を放棄することになりました。ここは天領となって、幕府が直接支配することになります。それで、先生ご一家はもう自由です。」

事情がまったくのみこめないまま鉱山役人を見送った二人は、まだ喜びがわいてこない。自由になったといわれても実感がないのだ。二人は、林の親分のところへ行くことにする。林の親分とおかみは、関ヶ原の戦いで毛利氏が石田三成がわに最初ついていて、合戦の場で寝返ったことなど知っていた。これが、シスト一家を自由にする原因になったなんて、意外ななりゆきにびっくりしてしまった。

林の親分
「自由になったってーこったー、シスト先生。高麗にも、もしかしたら帰れるっていうことだぜ。」

林の親分の顔に一瞬、不安そうな表情がうかぶ。林のおかみの顔にも、ルイス坊やとヨアキム赤ちゃんを見て、不安そうな表情がうかぶ。シストもカタリナもそれに気づいている。高麗に帰れると聞いたとたんに、シストとカタリナの心は大きく波だちはじめた。帰れるかもしれないんだ。帰りたいと。林の親分は考えている。世界最高の精錬技術をもち、信仰においてもすばらしい模範を示し、ならず者のおれたち皆が心服する指揮官。そして、この大成功をおさめた戦略を生み出し、皆にさずけた大将が、今、戦列をはなれてしまったらどうしよう。

彼にかわる人などいないのにと。林のおかみは、もしかしてルイス坊やとも、うちの人が代父になったヨアキム坊やともお別れなのかしらと、はらはらしだした。シストも自分の指揮官としての責任のことを考えている。神の国のための戦いは、まだ準備段階で、本番になってはいない。兵を残して大将が家に帰ってしまうようなことをしては、皆のやる気がなえてしまう。ぼくは責任上、高麗には帰れないと。カタリナは、殉教する時はいっしょにと願っている林のおかみとの女の友情を解消してはいけないと感じている。二人とも祖国への思いとの間で板ばさみになってしまっている。沈黙が続く。シストとカタリナが顔と顔をあわせてみつめあう。

シスト
「ぼくは、自分の使命を放棄できない。いっしょに戦ってくれている人の信頼をうらぎることはできない。苦しみとはずかしめの十字架の道の方をぼくは選ぶ。高麗に帰りたい。高麗に帰れるなら、苦しめられ、はずかしめられ、殉教するってこともなくなるだろう。ぼくは、今、自由に選びとる。十字架の道の方を。イエズスにならって歩くことを。カタリナ。わかってくれるかい。ついてきてくれるかい。」

カタリナ
「うん。シスト、私はいつでもあなたと一緒よ。あなたと同じ運命、同じ苦しみ、同じ十字架にあずかりたいの。そして、林の親分とおかみさんとも。」

林の親分とおかみの顔がパッと明るくなる。

林の親分
「おれは今の沈黙の長さで、シスト先生と奥さんが、どれほど大きいものを犠牲にしたか、よーくわかったんだぜ。シスト先生、おれにもう一度、祝宴をはらしてもらいてー。これほどのことを地下教会のためにささげてくれたことに見合うだけのことをさせてくれ。」

シスト一家が、奴隷の身分から自由の身分になった祝いを、キリシタンつち親を全鉱山から呼んで行なうという林の親分の申し出は、誰がなんといおうとやるというようなもので、シストとカタリナが何を言ってことわろうと無駄だった。

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2008年9月20日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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「33年」(39)林のおかみの告白

「33年」(39)林のおかみの告白
宴は、終わりに近づいている。大さわぎではしゃいで、ごちそうをお腹いっぱい食べて、ルイス坊やが林のおかみの胸にだかれて、ねてしまっている。いとおしくってたまらない、っていうふうに、林のおかみがなでたりほおずりしたりするのを見て、ヨアキム赤ちゃんにおっぱいを飲ませているカタリナが、思いきって前からの疑問を口にしてみる。

カタリナ
「ねえ、おかみさん。親分との間に子どもはできないの。」

林のおかみ
「私さー。実は、遊女だったんだ。何度もむちゃくちゃな方法でおなかにできた子を流産させたの。つまり殺しちまったの。それで子宮がだめになって、もう妊娠できなくなっちまったの。私は、売春婦で人殺しなんだ。でもマリアママはどんな子も決して見捨てない。私も救ってもらえる。しあわせ。」

林のおかみが、やすらかな顔でほほえむ。突然カタリナはすさまじい感動にとらわれた。全身にとりはだがたって、背筋がぞくぞくし、体にぶるぶる身ぶるいがおこった。その反応を見て林のおかみが言う。

林のおかみ
「どうしたのよ。正直に言って。私、軽蔑にはなれているから。」

カタリナ
「ちがうのよ。マリアママは、どんな子も決して見捨てない。私も救ってもらえる、しあわせって、おかみさんが言った時、感動しちゃったの。自分の罪深さをこんなに素直にみとめながら、こんなにマリアママのあわれみと神さまのゆるしを深く確信している人に、私、生まれてはじめて会ったわ。私、尊敬を感じる。私、おかみさんのこと、今の話で、今までも大好きだったけど、うんと、うんと、ますます好きになったわ。今日、男の人たちの友情の美しさをうらやましいと思ってたの。私、おかみさんと最期までいっしょにいて、いっしょに殉教したい。ねえ、林の親分はそれを知ってて、めとってくれたの。」

林のおかみ
「そうよ。もちろん。」

カタリナ
「ああ、私、林の親分もますます尊敬しちゃうな。」

林のおかみ
「私は、子分たちを息子たちと思ってかわいがっているんだ。でも、この子は特別。」

林のおかみは、まだ胸で寝ているルイス坊やをぎゅっとだきしめる。

林のおかみ
「この子は親分肌よ。うちの人も私も親分肌だから、なんかね、二人の間に生まれた子みたいに感じちゃって、かわいくってたまんないんだ。」

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2008年9月20日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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「33年」(38)勝利の宴(その2)

「33年」(38)勝利の宴(その2)
そして、彼ら一人ひとりの口から、うれしくも意外な言葉が返ってきた。

「シスト先生と奥さんに少しでも恩返しができる絶好の機会がきて、おおよろこびでかけつけてきました。」

「自分にとって最大の敵である秀吉のためにすら祈り、愛するなんて、すごい模範を与えてくれるシスト先生と奥さんが、大将と女大将だということで、本当に誇らしく思っています。」

「今、まだ、こうやって元気に生きていることも、しかも神におつかえする生きがいをもってしあわせに生きていることも、みんなシスト先生と先生の奥さんのおかげだから、こちらこそ感謝します。」

「自分の人生に希望があるのも、天国に希望がもてるのも、ほり子たちの人生に希望をもたらせるのも、ほり子たちに天国の希望を与えてやれるのも、みんなシスト先生と先生の奥さんのおかげです。ほり子たち全員の感謝も伝えます。」

「シスト先生と先生の奥さんが、秀吉のために救霊を祈り求めて、彼を愛したのを見て、悪党でならずもので、いまだに罪にまみれている自分のようなものも、絶対、救ってもらえるんだ。神様は、あわれみなんだ、ゆるしなんだと本当に確信できました。この模範で、救いの希望がますます強められました。ありがとう。」

「シスト先生、直伝の高麗のすごい技術をたずさえて、新しいところへ出て行けるので、いい立場を得られるんです。本当に、感謝してます。」

「結婚して子どもをもってます。すごくしあわせです。シスト先生がキリシタンつち親になって、妻をめとって、妻とだけ寝るように言って下さったおかげです。」

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2008年9月20日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
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「33年」(38)勝利の宴(その1)

「33年」(38)勝利の宴(その1)
二人とも泣いている。

林の親分
「大将と女大将の大勝利だから、兵たち全員で祝わなきゃな。」

カタリナにだきつかれ、だきしめられたままシストが両手を天の方へ高々とあげる。

シスト
「ああ、神さまありがとう。マリアママありがとう。みんなありがとう。」

シストは集まってくれた男たちの方へ目をやる。

シスト
「高麗が、救われたなんて、夢じゃないだろうか。ぼくは、喜びで自分が死んでしまわないのが不思議なくらいにうれしい。これは、ひとえにマリアママのおかげなんだ。ある日、マリアママはカタリナに、そしてカタリナを通してぼくに、マリアママは全ての人、一人ひとりの本当の母で、どんな悪人でもけっして一人も見捨てないってさとらしてくれたんだ。そして、二人に敵をゆるし、愛し、祝福し、彼らの魂の救いを心から願い求める心をくださったんだ。ぼくたち、二人とも自分ひとりではそれができなかった。ただただマリアママの助けでできたことだから、みんなの前で告白する。ぼくたち、二人とも何のてがらもたててないし、勝利も得ていない。マリアママが、たたえられ、愛されますように。」

カタリナがシストに話す。

カタリナ
「シスト、私もうれしくって、夢を見ているここちがするわ。私たちを天国からルドビコ茨木とパウロ茨木とレオン烏丸が、たくさん助けてくれたわよね。三人にも本当に感謝よね。三人は、天国で大よろこびよね。」

宴は、はじまった。林のおかみは、ルイス坊やのために魚の骨をはずして、身を口に運んでやったり、母親のように世話をしてくれている。シストのもとには、100人以上の男たちが一人ひとり、全員、次々にやってきて、高麗が侵略から救われたことを祝ってくれた。

彼らは全員キリシタンつち親で、シストが会ったことのないキリシタンつち親は、シストが教えたつち親とほり子のうち、その時、つち親として洗礼を受けたものを一代目とすると、ほり子として洗礼を受けて、あとでつち親を襲名したのが二代目だ。この二代目のキリシタンつち親が、他の鉱山に出て行って育てあげた三代目のキリシタンつち親なのだ。

ねずみ算式にふやすというシストの戦略はうまくいっており、もう三代目のキリシタンつち親が生まれているということが、宴の間にシストに分かってきた。しかも、現時点で100人以上にキリシタンつち親は、なっており、皆、地下教会の広がりをめざしてくれており、キリシタンつち親がいない鉱山へと、どんどん出ていってくれており、今や約100ヶ所にキリシタンつち親がいるという、鉱山の地下教会の成長ぶりが分かってきた。

六左衛門と林の親分のシストに対する熱い熱い友情が実現させたこの祝宴は、はからずももうひとつの大勝利、地下教会の予想外の急発展の姿をあらわに見せてくれるものになった。シストは、彼ら一人ひとりに心からお礼を言う。「こんなぼくたちのために、わざわざ集まってくれてありがとう。ぼくたちの祖国の勝利のために、こんな祝宴をはってくれてありがとう。みんなのおかげで、ぼくたちの喜びは百倍になったよ。」と。

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2008年9月20日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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「33年」(37)祖国がすくわれた(その2)

「33年」(37)祖国がすくわれた(その2)
林の親分
「六左衛門、はじめろ。」

六左衛門
「みんなー。よく聞けー。」

全員
「おーーー。」

六左衛門が大声で叫ぶ、皆が大声で答える。

六左衛門
「おれたちの大将と女大将は、イエズス親分の命令どおり、悪に対して悪を返さず、善をもって悪に打ちかったぞー。」

六左衛門が、にぎった右手のこぶしをつきあげる。立ちあがっている男たち全員が「うおーーー。」と長くさけんでこぶしをつきあげて答える。ルイス坊やもまねして同じことをやっている。

次は、林の親分が、どら声をはりあげる。

林の親分
「おれたちの大将と女大将は、イエズス親分の命令どおり、敵を憎まず、敵を愛して、自分たちの祖国を救ったぞー。」

林の親分も右手のこぶしをつきあげる。全員が「うおー。」と答えてこぶしをつきあげ、喜びを全身で表現する。皆の声の調子の祝いとよろこびのムードにのせられて、ルイス坊やも大よろこびして「おーーー。」と叫んで、手をぐるぐるとふりまわしている。

シスト
「自分たちの祖国を救ったって。」

シストは、立ち上がって、六左衛門と林の親分にむかいあい、二人の肩に手をおいた。

シスト
「今、祖国が救われたって言ったのかい、もしかして。」

二人は強くうなずき、六左衛門がくわしく説明する。

六左衛門
「秀吉は、6月の終わりに赤痢にかかった。8月5日に病状は悪化して絶望的になった。9月16日の朝、未明に秀吉は死んだ。その後、極秘のうちに高麗に総退去を侵略軍に命じる使者が送られた。今、高麗では、実際に侵略軍が占領地を放棄して総退去をしている。神は、秀吉に突然の病死をもたらし、それによって高麗を救ってくださったんだ。」

三人は今、輪になって肩をくんでいる。むこうでは、林のおかみがカタリナにくわしく教えてくれているようだ。カタリナが「キャーツ」と叫んでいる。カタリナが立ち上がって、シストがめがけて手をひろげて近よる。シストとカタリナが今、だきあう。

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2008年9月20日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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「33年」(37)祖国がすくわれた(その1)

「33年」(37)祖国がすくわれた(その1)
日がたつにつれ、カタリナは、林一家のなつかしい顔をよくみかけるようになった。晩ごはんを食べながらシストに言う。

カタリナ
「ねえシスト。このごろなつかしい人の顔をよくみかけるのよ。キリシタンつち親になって、よその鉱山に行った人たちなの。ふしぎだわ。」

シスト
「へえー。何なんだろうね。ぼくの方は、今日、林の親分がやってきて、あさっては仕事は休みだって。ぼくたち家族に大森の町で昼ごはんをごちそうしてやるって。」

ルイス坊や
「わーい。大森の町で、ごちそうなんだ。やったー。やったー。」

シスト
「誰か、つち親の襲名式をするのかって聞いたけど、そうじゃないって。いいから、いいから腹ペコにしとけ、ごちそうがいっぱいでるぞ、だってさ。」

最後は、ルイス坊やのおなかをポンポンたたく。

ルイス坊や
「ぼく今から何も食べないでおなかをすかしとくね。」

話題は、どんなごちそうが出てくるかという方へいった。

当日がきた。林の親分とおかみが、シスト一家をむかえにやってきた。それと、どこからあらわれたのか、六左衛門がいるので、シスト一家はびっくり。

カタリナ
「六左衛門。いつ来たの。えー。どうして。」

六左衛門
「お店につくまでないしょだよ。」

六左衛門は、いたずらっぽく答えて、とびついて来たルイス坊やを高くだきあげる。お昼ごろ、大森の町の一番大きな料亭に着き、中にとおされる。部屋につくと、人がいっぱいいるのに、まずおどろかされた。100人はこえている。あちこちでシスト塾をやったシストには、見おぼえがある顔が多いが、あったことのない人もまじっている。林の親分とおかみがシスト一家を上座の方へ、上座の方へと手を引いてつれていくので、シストとカタリナはうろたえはじめた。

林のおかみ
「びくつくことないよ、さあ、こっちだよ。」

とうとう一番の上座、主ひんの席に座らせられてしまった。シストとカタリナには、何がなんだかさっぱり訳がわからない。集まったもの全員が、シスト一家をのぞいて何の祝いか知っている。そして、これがびっくりパーティーだということも。それで、シストとカタリナのうろたえぶりを今、皆がニコニコしながら見守っている。林の親分が全員に立てと手で合図する、シスト一家はすわらせられたままだ。乾杯ではない。いったい何がはじまるのか。ルイス坊やは、皆にならって立ってしまった。

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2008年9月20日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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「33年」(36)いくらほめてやってもほめたりねえ

「33年」(36)いくらほめてやってもほめたりねえ
 1598年9月16日、シストとカタリナの、マリアママによって清められ完全にされた愛と、ゆるしと、あわれみと、祝福の祈りを、神はよろこんで受け取ってくださったのだ。とうとう神は指を動かして下さった。秀吉が、死んだ。シストとカタリナは、もちろんこのことを知らない、そして、祈り続ける。

 11月になり、侵略軍の総退去がはじまった。高麗は救われたのだ。しかし、日本では、これらすべてが秘密にされていた。六左衛門は、長崎でイエズス会の情報網により、侵略軍に総退去を命じる使者が秘密のうちに出発したことを、10月はじめにいち早く知った。

 1598年11月、六左衛門が石見(いわみ)にやってきた。もちろんシストとカタリナにこのすばらしい知らせを伝えるために。カタリナは、ルイスぼうやとヨアキム赤ちゃんをつれて散歩にいっているようで、家にいなかったので、シストの仕事場に向かおうと歩いていたら、偶然、林の親分とおかみにでくわした。

林の親分
「おー六左衛門、久しぶりだな。」

林のおかみ
「何ニコニコしてんのさ。何かいい知らせかい。」

六左衛門
「やー 久しぶり。」

 六左衛門は、林の親分とおかみに秀吉の病死と、その結果、侵略軍に総退去命令が出され、総退去がはじまっていることを詳しく話した。

林の親分
「本当かー。うーん。」

林のおかみ
「まあ。あの二人、とびあがってよろこぶよ。」

林の親分
「六左衛門、あの二人には、まだ知らせてねえんだな。よーし。六左衛門、10日間だけ、これをあの二人にはだまっててくれねーか。」

 六左衛門と林のおかみは「えー。」と、びっくりして声をあげる。

林の親分
「あの二人、本当に、心から秀吉と、侵略軍と、日本人の魂の救いを祈ってるんだぜ。おれの祖国が同じめにあってたら、おれは絶対まねできねえ。いくらほめてやってもほめたりねえ立派な行いだ。そして、とうとう神様を動かしちまった。おれが神様だったとしても、こんなけなげな二人の願いを聞かないわけにはいかねえな。あいつら自分の祖国を救ったんだ。悪に対して悪を返さず。善をもって悪にうち勝て、ってー、イエズス親分のおっしゃることをそのまま地でいってよー。いくら祝ってやっても祝いたりねーよ、これは。な、そーだろ。」

 六左衛門と林のおかみは大きくうなずいている。

林の親分
「おれにまかせろ。最高の祝いの席をもうけてやる。」

 六左衛門は、シストとカタリナに会えば、必ず高麗の戦況を質問されるから、それをさけるために、10日間はよそを伝道してくることにして、石見銀山から出て行った。

 林の親分は、子分たちを伝令にたてて、キリシタンつち親たち全員が集まるよう、集合をかけた。子分たちは、地下教会の広まった鉱山全部にすっとんでいった。林のおかみは、大森町で一番格の高い店の、一番格の高い部屋に、大宴会の予約をいれた。

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2008年9月20日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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「33年」(35)マリアママは全人類の母、あわれみの母 (その2)

「33年」(35)マリアママは全人類の母、あわれみの母 (その2)
シスト
「マリアママがぼくを、今、救ってくださった。ああ……。苦しかった。」

カタリナ
「シスト、シストもできる。」

シスト 
「うん、ぼくも、今、できたんだ。」

カタリナ
「そして、心が変えられた。」

シスト
「うん。ぼくは今、はじめて、本当にマリアママに出会ったよ。頭の判断をすべてやめて、ただ心だけであわれむってことが、今、ぼくの中で起こったんだ。こんなの生まれてはじめて体験した。マリアママが、ぼくを新しく生まれ変わらせてくれたみたいだ。こんなみじめで弱く、悪い、最低最悪のぼくのところまで、マリアママがきてくれたんだね……。」

 シストは、静かにかたり、静かに泣き続ける。

シスト
「マリアママ、あなたのあわれみを感謝します。賛美します。」

 神の2人に対する要求はきわめて高く、きびしかった。神は2人の中に、きわめて大きい祖国愛と神の国への愛をあらかじめ育てあげ、それから神の国を根絶しようとしたネロ皇帝とその手下どもと、一つの大きな民族を滅ぼしつくそうとしたヒトラーとその手下どもを合わせたような存在である、秀吉とその手下ども、その国民を心から愛し、ゆるし、祝福し、祈れという、課題をかしたのだ。シストとカタリナは、どんな高麗人よりも徹底的に自分の罪ぶかさを見つめさせられ、思いしらされた。弱さ、悪さ、ゆえに、一歩も自分では前進することができない、それほどに最低最悪な魂のもちぬしなんだと痛感させられた。祈りがなにもききとどけてもらえぬように感じ、神から見捨てられたと本当に思わされた。こうして今日、マリアママが一方的に2人の心に奇跡を行なって、2人を助けて、変えて下さった。

 どのように変えて下さったかというと、一言で言えば、マリアママ的な魂に変えて下さったのだ。シストとカタリナは、どんな高麗人よりもマリアママ的になった。日本という国の中に、ほとんどの人に知られず、かくれた存在である、治外法権の鉱山の世界という、ならずものの国がある。この国のどうしようもないほど罪によごれくさった、ならずものたちのカトリック教会の大将と女大将、2人の指揮官を今、神はマリアママによって、マリアママ的に変容させた。

 それは、このならずものの国のカトリック教会が、完全にマリアママ的なカトリック教会として育てられ、15年後には、迫害によってキリシタンをやめますと宣言したぼう大な人々を、箱舟のようにふところにに入れて、守り、天国へと運ぶという役わりを受けるようにさせるためだ。

 母は、どんな子も見捨てない。例外なくどんな子もなのだ。それをシストとカタリナにひきいられた地下教会は実行することになるのだ。今、シストとカタリナには、それは未来のこととして教えられてはいない。今はただ、シストとカタリナの、マリアママへの愛が、どんな高麗人よりも強くなり、マリアママの母的心を、どんな高麗人よりも完全に理解したとだけ言える。

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2008年9月20日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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「33年」(35)マリアママは全人類の母、あわれみの母 (その1)

「33年」(35)マリアママは全人類の母、あわれみの母 (その1)
 1598年2月。2番目の子が生まれた。男の子だ。この子の代父は、林の親分で、この子はヨアキムという彼の名をもらった。六左衛門が例の「かための盃のためのひょうたん」で洗礼を授けてくれた。ヨアキム赤ちゃんは、誰がみてもお母さん似だねと言われる。気質もどうやらカタリナゆずりのようだ。カタリナの気質の最大のものは、並はずれて豊かな同情心だ。シストの気質は、強い正義感が最大の特ちょうだ。正しいと信じたら、どこまでもどこまでも信じたことをやりぬくことと、自分の言葉に対して誠実でありつづけるという行動にそれがよくあらわれる。シストは、「祖国の救いのためには一万回でも死にたい」と宣言した。そして六左衛門から教えられた方法が正しく唯一の方法だと理解し、確信した。

 いよいよ侵略は7年目にはいり、戦闘のすさまじさと祖国の荒廃のひさんさがますます耳に届くが、彼は妻をはげましはげまし、何万回ではなく何十万回とあわれみのシュート練習を繰り返す。韓国のサッカー選手のようにますます強く、多彩に、遠くに、正確にけることができるように、あきらめることなくチャレンジをくり返す。

「秀吉と日本人をあわれみます。彼らの永遠の救いを望みます。」と、これが心の底からの祈りと祝福になることをめざして。しかし、賛美と感謝をこのことにおいて、この状況でささげることが本心からできるようになるという目標は、気の遠くなるほどの先にあるように2人は感じている。2人の内的な戦いの困難さを助けるために、神はマリア様を通してカタリナの豊かな同情心に働きかけてくださった。

 ある日、カタリナは、ルイスぼうやとヨアキム赤ちゃんと3人でいた時、突然、マリア様からのインスピレーションを受けたのだ。それは、マリアママは、秀吉の母でもあり、侵略軍の一人ひとりの母でもあり、全日本人一人ひとりの母でもある。マリアママは、彼らを実の母親の何億倍も愛していて、永遠の救いを得させるためならどんなことでも、それこそ何万回でも死んであげたいと思っていらっしゃる。私は、秀吉の母である、また、日本人の一人ひとりの母であるマリアママの気もちが、この2人の子をもってわかる。マリアママの身になれば、真実に秀吉と日本人をあわれんで、その一人ひとりの永遠の救いを願いもとめることができる。今、そうやってみたら、本当に私は彼らをあわれむことができた。祖国の人々と何の差別もなく。全人類の母、あわれみの母であるご自分への一致という手段を与えた瞬間、カタリナは心において完全に死ぬことができるようになった。つまり、真実に、心の底から敵を愛し、あわれみ、ゆるし、祈り、祝福できるようになった。この瞬間的な心の激的変化に、カタリナはおどろきのあまり、とびあがって叫んでしまった。

カタリナ
「やったー。できたー。マリアママありがとう。あなたは本当に善い方です。賛美と感謝です。」

 そしてカタリナは再びおどろいて、とびあがった。

カタリナ
「賛美と感謝だって。私、賛美と感謝してる。」

 カタリナは、自分の中に働いた神の恵みと、自分の中にうちたてられた愛の徳が、突然のもので、一方的なマリアママの働きかけだったので、純すいに内的な世界だけを見て、賛美と感謝をささげたのだ。外的な状況はいっさいかかわりなくだ。

 仕事を終えたシストが帰ってくると、カタリナは食事のしたくもほったらかして、まちきれないかのようにシストにとびついて、マリアママから受けたインスピレーションと、心の変化という恵みを、一生けんめいになってシストに語る。二人は立ったままだ。聞いているシストの目から涙があふれ、ほほをつたってころがりおちる。カタリナも涙をながす。シストは静かに泣き、上を見上げる。

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2008年9月20日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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「33年」(34)心の死 (その3)

「33年」(34)心の死 (その3)
 本当に、シストとカタリナにとってこれを言うのは、心における「死」だ。前もって確実に死を予告された人がたどるプロセスというものがある。受けいれられなくて最初は怒り、あれくるう。「なぜ自分だけがこんなめにあうのか。神は、運命は、残酷だ」と。そして悲しみにふさぎこんでいく。そして少しずつ死が受け入れられるようになる。そして、心に少しずつ平和が戻ってくる。そして、死を良いものとしてとらえようとする。それができる程度に応じて、よろこびさえ生じてくる。

 シストとカタリナは、肉体上の死を告知されたものがたどるプロセスにちょうどそっくりの道を行きはじめた。今は、怒りと悲しみが強くて、「受けいれる」ということはまったくできない。理解し、いっしょに苦しんでくれる友、六左衛門、林の親分とおかみの存在が、地上でのたのもしい助けだ。そして、本当に天国からの助けが支えとなるのだ。なぜなら神に賛美と感謝をこのことについてもささげるよう、そこまで神は2人に求めており、それができるためには地上の友だけでは、まったく足りないからだ。シストとカタリナは、ルドビコ茨木、パウロ茨木、レオン烏丸と固く結ばれた。そして、神は高麗の救いの計画を、本当に彼らによって継続してくださるのだ。

 1597年9月だ。高麗の南は征服され、高麗水軍が壊滅し、2人の祖国が残虐にふみにじられている知らせが届く。2人の心における「死」は、深い。神から見捨てられたようにすら感じるくらいだ。しかし2人は愛する祖国を救うために、その「死」を何万回もささげようと、「秀吉と日本人を愛し、ゆるし、あわれむ。彼らを救ってあげてください」と忍耐づよく続けている。

 4才になったルイスぼうやのかわいさは、2人の心の苦しみを大いにいやしてくれる。映画「汚れなきいたずら」のマルセリーノぼうやが5才だったと言えば、ルイスぼうやのかわいいさかりの姿が思いうかぶだろう。神は、けなげに心における「死」をささげ続けるシストとカタリナに特別なはげましを与えてくださった。2番目の子が宿ったのだ。ルイスぼうやも、弟か妹ができると聞いて大よろこびだ。「お母さんが食べたからおなかに入ったの?」とか言って質問しまくり、実にかわいらしい。いたずらもし、シストのやることを何でもまねるルイスぼうやの幼い無邪気さは、かわいいだけでなく、憎むことも、うらむことも、復しゅうすることも、さばくことも、のろうこともない、天使のように生きるということを、姿をとおしてシストとカタリナに教えてくれる天の教科書、教材だ。こうして、ふたりは「幼な子路線」へとみちびかれ、霊魂の毒である憎しみ、うらみ、復しゅう心、さばき、のろいからより完全に清められていく。

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2008年9月20日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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「33年」(34)心の死 (その2)

「33年」(34)心の死 (その2)
 六左衛門がゆっくり、そしてきざみこむように話しはじめる。

六左衛門
「シスト、カタリナ。君たちは、一万回死んで、高麗を救うことができるよ。」

 シストとカタリナは、六左衛門を見る。

六左衛門
「自分に死ぬということを一万回も、それ以上も行なえば、君たちの愛する祖国を、君たちは神に救ってもらえる。必ず、きっとだ。」

シスト
「自分に死ぬって。」

六左衛門
「自分を殺して、自分の望みじゃないことを行なうこと。自分の好みや、望みや計画ではなく、それと対立する神の好みや望みや計画を受け入れて実行すること。これが自分に死ぬことだよ。」

シスト
「具体的には、何をするんだい。」

六左衛門
「このあいだ君たちが、パウロ茨木とレオン烏丸からさずけられた遺言を、実行することだよ。」

シスト
「あわれみの全くないやつらを、あわれまなきゃならないのかい。晋州城でやつらは、赤ちゃんにいたるまで何万もの人をみな殺しにしたじゃないか。」

 シストは、抗議する。

カタリナ
「なぜ秀吉までも愛し、ゆるし、祝福し、祈ってあげなければならないの? どうやってそんなことが実行できるの?」

 カタリナも抗議する。

六左衛門
「君たちが、できないって思うのは当然だ。同じ立場だったら、ぼくにだってできないもの。だから、あの3人の聖人たちに助けてもらうんだ。彼らはやってのけたじゃないか。そして、君たちにそれをやるようにすすめた当の本人なんだから、必ず助けてくれるよ。彼らは、神とともにあわれな侵略者の秀吉と日本人をあわれんで、祖国のために功徳(くどく)をつんで、それをささげた。2月5日までに彼らがやってくれたことを、今日から今度は君たちがひきつぐんだ。
 いいかい。神は全てを支配しているんだよ。この侵略をやめさせることも、神様にはできるんだよ。ただ、そのためには神と一致して愛とゆるしとあわれみを実行する、いけにえになる人間が必要なんだ。ほら、イエズスが自分を殺す人々を愛し、ゆるし、あわれんで、『父よ、彼らをおゆるしください。彼らは、何をしているのかわからないのですから』って祈っただろう。功徳をつんで、それをささげることによって、神が何でもなさってくださる。これを信じるんだよ。」

カタリナ
「高麗を救うことが私たちにできるの?」

六左衛門
「神は、全てを支配してらっしゃる。だから高麗を救う唯一の方法がこれなんだよ。神にやってもらうんだ。」

シスト
「この方法しかほんとうにないのかい?」

六左衛門
「秀吉と日本人は、確かに悪魔に導かれている。その悪魔に打ち勝つには、愛とけんそんしかないんだよ。なぜなら、悪魔には愛とけんそんがこれっぽっちもないから、愛とけんそんを実行する人間と戦うと、混乱し、負けてしまうんだよ。この方法をえらべば、それが、実行できない弱く悪い自分自身に直面する。その時こそへりくだって、自分の弱さ悪さをみとめ、神に、天使たちに、聖人たちに、特にあの3人に『助けて』ってたのむんだ。それで、けんそんになれるんだ。
 悪魔が秀吉と侵略軍を守っていると考えてごらん。そしたら、悪魔より強いほうに頼むしかないってわかるだろう。その神に願いをかなえてもらうには、君たちがまず神の願いをかなえてあげるんだ。」

 シストとカタリナに、今は、もうすでに強力な助けが聖なるあの3人の殉教者から与えられはじめている。シストとカタリナに、彼らの姿と言葉がありありと脳裏によみがえる。六左衛門の言葉だけでは、2人にはこの試練はのりこえられないにちがいない。しかし、生きた模範をふたりはもっている。天国からの助けを送ってくれる生きた模範だ。彼らにはできた。しかも子どもにすら。

 林の親分とおかみもいっしょになって考えている。13才のアントニオの模範が彼らにはある。もちろん天国からのこの子の助けもだ。

六左衛門
「実はね、こんどの26人の殉教が日本ではじめての殉教ではないんだよ。イエズス会のパードレが、過去何人も仏教の僧りょから毒殺されているんだ。ぼくたちイエズス会の関係者は、それでも日本人を愛し、ゆるし、あわれみ、救いを願っている。ぼくにとっては敬愛する恩師たち、ポルトガルやイスパニアの会員にとっては愛する仲間が、何人も暗殺され続けているのにだよ。彼らのとうとい犠牲と、ぼくたちのゆるしと愛とあわれみを合わせて神様にささげ、日本を救っていただくためにね。」

林の親分
「でも秀吉を愛するってどうすりゃいいのかい? おれはあんなやつ大きらいだぜ。」

林のおかみ
「わたしもさ。好きになんてなれっこない。あんなやつ。」

六左衛門
「愛は、好き嫌いにとらわれず、相手の善を願ってあげることなんだ。だから、『秀吉が救われますように』って、神様に願うことで、大嫌いなままでも愛したことになるんだよ。」

 シストがつぶやく。

シスト
「自分に死んで、いけにえの愛にいきる……」

 シストがまたつぶやく。

シスト
「父よ、秀吉と日本人をお許しください。秀吉と日本人は、何をしているのかわからないのですから…」

 皆がシストのひとりごとに耳をすましている。

シスト
「これを言うのは死ぬほどつらい…」

 カタリナが何度もうなずいて、胸に苦しそうに手をあてる。

シスト
「でも高麗を救うにはこれしかない。だったらぼくはやる。ぼくたちはやる。」

 シストはカタリナを見、カタリナは答える。

カタリナ
「うん。」

林のおかみ
「わたしたちもいっしょにやるからさ。」

林の親分
「そうだ、そうだ。シスト先生と奥さんの祖国のために、おれたちもいっしょにやってやるぜ。なあ、六左衛門。」

六左衛門
「もちろんだ。」

シスト
「今、この言葉を言ってみて、ぜんぜん許せていない。愛せない、あわれめない自分がはっきりわかる。ぼくは最低最悪だ。三人の殉教者とくらべたら、なおさら自分のみにくさが思いしらされるよ。」

カタリナ
「六左衛門。でも、『秀吉と日本人を救ってあげて』って言えば、それでも高麗を救えるのよね。心が反対のことをさけんでいても。そうでしょ。」

六左衛門
「そのとおりだよ。いや、むしろ感情が反発し、言うのがつらければつらいほど、自分に死ぬ、いけにえの愛に生きるってことが、よりできているってことなんだ」

カタリナ
「よかった…。私は、今は、心から言えないもの」

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2008年9月20日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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「33年」(34)心の死 (その1)

「33年」(34)心の死 (その1)
 カタリナがシストの手を求める。カタリナの手がどんどん冷たくなるのをシストは感じる。ショックが大きすぎたのだ。シストはこみあげてくる怒りの感情に圧倒され、カタリナの手をにぎったその手がふるえる。シストが怒りに満ちた声をあげる。

シスト
「やつらに、高麗(こうらい)人を殺りくする権利なんてない。高麗を征服する権利なんてない。高麗の人が、自分の国を守って戦うのは、高麗の人の正しい権利だ。」

 最後には、大声になった。カタリナも、涙声で怒りの抗議をする。

カタリナ
「どうして日本人は、誰も秀吉に反対しないの。どうして、こんな悪いことにみんな賛成するの。どうしてなの。」

林の親分
「ちくしょう。なんてーやつだ、秀吉め。死んじまえ。」

林のおかみ
「シスト先生と奥さんがおこるのも、もっともだよ。何で人の国をぶんどらなきゃならないのさ。」

 林の親分とおかみも、いきりたっている。シストとカタリナにとって、自分たちの義憤(ぎふん)に心から同調して、同じ義憤にかられてくれる林の親分とおかみがこの場にいて本当によかった。シストは怒りを表現し、同調してもらわなければ、今はどうしようもない。

シスト
「やつを殺してやりたい。」

林の親分
「おれもだ。」

シスト
「ぼくは、やつが憎い。」

 シストの声は、怒りからうめきに変わってゆく。

シスト
「祖国と同ほうが、こんなめにあうより、ぼくが一万回殺されるほうがいい。」

 人は、自分をひどいめにあわせた人を許すのと、自分が最も大切に思い、愛している人をひどいめにあわせた人を許すのと、どちらがたやすいだろう。実は、前者の方がよりたやすいのだ。そして後者は、最高にむずかしいことなのだ。シストとカタリナが、怒りと憎しみの感情をいだいたのは当然のことだ。

 今、この時点でのシストとカタリナに、神に賛美と感謝をささげながら殺されるよう神が求めれば、二人はそれができるにちがいない。しかし、彼らに、弱りはてた祖国をさらに痛めつけ、生き残っている同ほうを、さらに殺りくすることを秀吉が命じたことについて、今、神に賛美と感謝をささげることはできない。今、秀吉を愛し、許し、祝福することはできない。今の二人には不可能だ。

 連行されてからの一日一日は、祖国愛が増す一日一日だった。特に義兵の抵抗は、伝え聞く二人をいっそう激しく祖国愛に燃えたたせ、今では祖国と同ほうのためには、一万回死ぬことだって望むほどになっている。その祖国が滅ぼされ、民が、特に、義兵が殺りくされる。命令は出て、準備が日本中で始まった。義兵の抵抗によってこの侵略がざせつし、兵が引きあげ、祖国が解放されるという望みは、シストとカタリナはじめ、日本にいる高麗人全員の望みだったのに、その希望の灯は、吹き消されてしまった。

 今から、この状況で神は、シストとカタリナに、ルドビコ茨木(いばらぎ)とパウロ茨木とレオン烏丸(からすまる)の姿と言葉を通して、神に感謝と賛美をささげ、秀吉と日本人をあわれみ、彼らを愛し、許し、彼らに対し柔和であり、彼らのために祈り、祝福するよう求める。この点で、シストとカタリナが神から受ける試練(しれん)は、3人の高麗人殉教者よりもはるかに大きいといえる。しかも、神は、このためしを1年9ヶ月にもわたって、シストとカタリナにかしつづけるのだ。

 1599年1月末に、高麗は完全に解放される。その日まで、日々、絶えず神はシストとカタリナにこの課題をつきつけ、要求し、ためしにためしつづける。2人にとって、生涯の中で最大のためしにあう1年9ヶ月だ。なぜ、このようなことを神は2人になさるのか。それは、2人を最高にすぐれた道具にするためだ。不純な動機はいっさいなく、ただ純粋に愛の動機だけで行動する道具、神の助けがなければ、良いことは何ひとつできないと痛感しているけんそんな道具、どんなに長く待たされても、希望と信頼で忍耐しぬく道具にするためだ。

 シストがうめく。

シスト
「高麗を救いたい。六左衛門。高麗を救うためにぼくは、いったいどうすればいいんだ。ぼくには、何もできない。」

 あれくるった怒りに、悲しみがどんどん混じっていく。シストは、男泣きをはじめた。林の親分は、シストの肩をだきに行き、反対がわから林のおかみがカタリナの横に座る。カタリナは、両手を林のおかみにまわし、だきついて泣く。六左衛門は、シストが静まるのをだまってまちつづけ、男らしく悲しみつつ、論理的に話す準備をしている。

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2008年9月20日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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「33年」(33)神よ、あなたはよい方です

「33年」(33)神よ、あなたはよい方です
弱いもの、ちっちゃいものに、これほど明らかにあらわれた神の栄光。彼らに注がれた神の力。彼らに与えられた神のあわれみ。神よ、あなたは善い方です。神様ありがとう、という賛美と感謝だ。

カタリナ 
「私、あの3人の子を絶対忘れないわ。あの子たちにならいたいの。ちっちゃいままでいて、どんな時にもよ、殺される時にもよ、神様ありがとう、あなたは、ほんとうに良い方です、て言いつづけるの。」

シスト
「ぼくもだ。あの一番ちっちゃなルドビコが、自分のための一番ちっちゃな十字架にかけよって、その木をだきしめたのに、ぼくはならいたいよ。この十字架、大好きって、苦しみとはずかしめ、そして、死までもだきしめたいよ。」

 12才の高麗の男の子ルドビコ茨木(いばらぎ)の印象が最も強烈に、2人の心に残ったかのようにみえる。しかし、パウロ茨木(いばらぎ)の言葉とレオン烏丸(からすまる)の説教は、2人を今からおそう途方もない打撃にそなえ、神が語らせたとしか思えない。2人は、彼らの言葉の重さを理解し、その言葉でもってかろうじて自分を支えることになるのだ。

 1597年の4月、前回の訪問で、殉教者たちの最期を伝えてくれた六左衛門が、今回もってきた知らせは、シストとカタリナの胸にやいばを突きたて、えぐるようなものだと六左衛門自身がよく分かっている。友情は、彼らの心と六左衛門の心を深く結びあわせており、彼らにとって何が一番苦しいことか、六左衛門には手にとるようにわかるのだ。しかし友情で結ばれているがゆえに、かくすことはできない。六左衛門は、今晩大事なことを話すと言い、すぐには言わない。林の親分とおかみに唐人屋敷に来てもらうという。日がくれて、林の親分とおかみがやってきた。六左衛門が、とうとう伝える時がきた。

六左衛門
「シスト。カタリナ。君たちの祖国にとって最悪の事態だ。秀吉が、さらに14万人以上の大軍を、高麗にせめこませることにきめた。義兵を皆殺しにして、高麗を制服するつもりだ。」

シスト 
「そんな……。」

カタリナ
「うそ……。」

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2008年9月20日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

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寺沢の韓国人殉教者夫妻シストとカタリナの物語!

寺沢の韓国人殉教者夫妻シストとカタリナの物語!
400年の時を経て 今 明かされたシストとカタリナの33年の闘いの真実 !

祖国韓国の救いの為に、命を捧げた二人。その直系の子孫に託された希望… 今、寺沢で続く聖母出現 ! 先祖シストとカタリナと 祖国韓国への愛を込めて渾身の力を込めて書いたシナリオ !

寺沢の韓国人殉教者夫妻 シストとカタリナの 物語!

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