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「33年」(51)湯沢にて(その2)

「33年」(51)湯沢にて(その2)
 シスト家、林の親分一家、三太夫親分一家が大部屋に勢ぞろいした。どよめいているのは、次から次へと教えられ、先ほどの武士が院内銀山奉行だと全員が知ったからだ。先に来て皆をまっていたペトロ人見に皆が注目する。ころあいよしと見てペトロ人見が立ち上がり、皆をすわらせる。そして歓迎の言葉を口にする。

ペトロ人見
「シスト先生。先生の奥さん、林の親分、三太夫親分、そして皆さん、院内銀山と寺沢金山に地下教会の本拠地を移しに、ようこそ来てくださいました。私はキリシタンのペトロ人見です。」

 石見からの一団のうち大人たちは、皆、息をのんだ。

ペトロ人見
「私は、初代院内山奉行に任命されたばかりですが、これは大抜てきでも栄転でも大出世でもなく、左遷なんですよ。ついこの間まで私は久保田藩の武士たちに西洋式の馬術を教えていたのです。もちろんついでにキリシタンの教えもね。」

 若いならずものたちの心は、この言葉で一気にほぐれた。ペトロ人見の人柄にぐんぐん皆がひきつけられる。皆が笑顔になったのを確認して続ける。

ペトロ人見
「家臣たちが私からどんどん洗礼を受けるので、殿様は困ってしまっていたところへ、院内銀山が開かれ、ちょうど私をかくしてしまうのに、いい穴があると思われたのです。」

 もう遠慮がいらないことがわかって皆は大笑いする。それがおさまるのをまって続ける。

ペトロ人見
「これにこりて私がおとなしくなるのを殿様はお望みのようですが、新しく開かれた銀山でひらきなおって大暴れしようというのが私の決意です。つまり、今までの何倍もの人にキリシタンの教えを教え、洗礼をさずけようと決心しているのです。」

 聞いている皆の口から、オーという声があがる。このすごい話しに感嘆しているのだ。

ペトロ人見
「この身にふりかかる結果としては、奉行職のはくだつと、久保田藩からの追放が数年先には確実にあるでしょう。その時が来るまで、できるだけ多くの人に洗礼をさずけたいのです。それにくわえて地下教会を全国の鉱山に広げる皆さんの仕事を全力を尽くして支えたい。」

 林の親分が思わず口をはさんでしまう。

林の親分
「てーいうことは、もとは人殺しやどろぼうだったかもしれねーならずものの、やましやつち親やほり子たちに銀山奉行さま、じきじきに教えて、じきじきに洗礼をさずけていただけるってーことですかい。」

 林の親分は、いつものようにすばやく先におこることを具体的に読んでイメージしている。そして信じられないといわんばかりの顔つきだ。

ペトロ人見
「そのとおり。この身の続くかぎり、そうするつもりです。」

林の親分
「信じられねー。いや、そりゃすげー。そりゃ、ありがてー。夢のような話しだぜ。」

ペトロ人見
「それだけではありません。近くの村々から百姓たちが、たくさん働きに来ています。女の子や男の子もたくさん。その百姓たちにも教えて洗礼をさずけたい。もちろん私の家来の役人たちにも。それから、久保田藩は、流れ者になって他国から来た農民たちを、新田開発のためにどんどん受け入れて住まわせています。実は、彼らの中にキリシタンが多いのです。私は、久保田城下で武士や町人や農民、あらゆる身分のもの数百人に洗礼をさずけ、彼らを組織化しました。今度も院内銀山、寺沢金山を中心に、あらゆる身分をふくんでキリシタンを広い範囲で組織化したい。皆さんの助けがあれば百人力です。神様のために、マリア様のために、心をひとつにして助けあいましょう。」

 男たちが、オーと大声でこたえる。

三太夫親分
「エイ、エイ、オー!」

男たち
「エイ、エイ、オー! エイ、エイ、オー! エイ、エイ、オー!」

 シストは、カタリナの手をギュッと強くにぎる。このさわがしさのなかなので、カタリナはシストの耳に口を近づけて聞く。

カタリナ
「どうしたのシスト?」

 シストもカタリナの耳に口を近づけて、

シスト
「あとで打ち明けるよ。ぼくの心のひみつを。」

 シストがニコッとする。カタリナは、うなづく。

 このあと二人の百姓が自己紹介をした。寺沢藤兵衛と寺沢太郎右衛門だ。

 大部屋での晩御飯が終わった。シスト、六左衛門、林の親分、三太夫親分、ペトロ人見、寺沢藤兵衛、寺沢太郎右衛門の七人の男は、別の部屋に別の席がもうけられてそちらに移動だ。マグダレナがだだをこねる。

マグダレナ
「おら、ロクジャエモンど、いっしょにいでがら、いっしょにいぐ。」(私、六左衛門と一緒にいたいから、一緒に行く。)

六左衛門
「だめだよ。夜おそくまで、むつかしい話しなんだから。カタリナ。マグダレナをつれていって、同じ部屋で寝かしてくれ。」

 カタリナがマグダレナの手をひくと、マグダレナはついてきたが、部屋について顔をのぞきこんでよくみると涙目だ。

カタリナ
「どうしても六左衛門と一緒にいたかったの?」

マグダレナ
「おめー、カタリナっていうなだべ。ログジャエモンど仲がいいんだべ、おらログジャエモンのごど、だいすぎなのによ、ログジャエモンはおらのごど、じゃまにすんなへー。」(あなたは、カタリナっていうのね。六左衛門と仲よしなんでしょう。私は、六左衛門が大好きなのに、六左衛門は私のことじゃまにするの。)

 マグダレナは唇をかむ。涙が、こぼれる。

カタリナ
「まあーーーー。」
 カタリナは同情心があふれてしまって、マグダレナをやさしくハッグする。横に立ったルイスが聞く。

ルイス
「どのくらい好きなの?」

マグダレナ「おら、ロクジャエモンと結婚してなだもん。そんくらいすぎなの。」(私、六左衛門と結婚したいの。そのくらいすきなの。)

ルイス
「お母さん。このあたりの人って、何か日本人じゃないみたいだね。」

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2008年11月22日 UP
著者 ミッシェル・マリー・フランソワ奥田力
(C) 箱舟の聖母社

http://lphakobune.web.fc2.com/33nen_051.html


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